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資金繰りとは?黒字なのに倒産する仕組みを、5か月分の数字で追う

資金繰りとは、会社に入ってくるお金と出ていくお金の流れを管理して、支払いに必要な現金を切らさないようにすることです。

ここで多くの経営者がつまずくのが、利益と現金はまったく別のものだという点です。
帳簿の上では利益が出ていて、税金も払う。それなのに口座の残高は減っていく。
この状態が行き着く先が「黒字倒産」です。

東京商工リサーチの調査では、倒産した企業のうち最終期が赤字だった割合は66.2%とされています。
裏を返せば、およそ3社に1社は、最後の決算が黒字のまま倒産しているということです。
黒字倒産は珍しい事故ではありません。

この記事では、売上が毎月20%伸びている会社が5か月で現金を使い果たす過程を、実際の数字で追います。
言葉で「入金と支払いにズレがある」と説明されてもピンとこないので、月ごとの残高で見てもらうのが一番早いからです。

資金繰りと利益はどう違うのか

会計の利益は「いつ取引が発生したか」で計算します。商品を納品した時点で売上が立ち、
代金が2か月後に入金される取引でも、売上は納品した月に計上されます。これを発生主義といいます。

一方で資金繰りは「いつ現金が動いたか」だけを見ます。納品しても、入金されるまでは現金ではありません。

項目 損益(利益) 資金繰り(現金)
いつ計上するか 取引が発生したとき 現金が動いたとき
売掛金 売上として計上済み 入金されるまでゼロ
在庫 費用にならない(資産) 仕入れた時点で現金が出ていく
借入金の元本返済 費用にならない 現金が出ていく
減価償却費 費用になる 現金は出ていかない
会社が潰れる基準 関係ない これが尽きたら倒産

会社が倒産するのは、赤字だからではありません。支払うべき現金が用意できなかったときです。
利益がいくら出ていても、支払日に口座が空なら事業は止まります。

数字で追う:売上が伸びているのに現金が尽きる5か月

ここからが本題です。好調な会社を想定します。悪い会社ではありません。

  • 1月の売上は1,000万円。そこから毎月20%ずつ増えている
  • 原価率70%、販管費は月200万円で固定
  • 売上代金の入金は2か月後(月末締め・翌々月末払い)
  • 仕入代金は当月払い
  • 期首の現金は500万円

まず損益を見る — 毎月増益です

1月 2月 3月 4月 5月
売上 1,000 1,200 1,440 1,728 2,074
売上原価(70%) 700 840 1,008 1,210 1,452
販管費 200 200 200 200 200
利益 100 160 232 318 422
累計利益 100 260 492 810 1,232

単位:万円

5か月で1,232万円の黒字。しかも毎月増益です。決算書だけ見れば理想的な会社に見えます。

次に現金を見る — 5か月目にショートします

同じ会社の現金の動きです。入金は2か月前の売上、支払いは当月の仕入と販管費。

1月 2月 3月 4月 5月
入金(2か月前の売上) 1,000 1,000 1,000 1,200 1,440
仕入の支払(当月) 700 840 1,008 1,210 1,452
販管費 200 200 200 200 200
現金の増減 +100 −40 −208 −210 −212
月末の現金残高 600 560 352 142 −69

単位:万円/期首現金500万円

5か月間で1,232万円の利益を出しながら、5月末に現金が69万円足りません。
これが黒字倒産です。悪いことは何も起きていません。売上は伸び、利益も出ている。
それでも支払いができなくなります。

何が起きているのか

仕組みは単純です。売上が伸びると、仕入の支払いは今月すぐ増えるのに、入金が増えるのは2か月後だからです。

3月を見てください。仕入の支払いは1,008万円に増えているのに、入金は2か月前(1月)の売上1,000万円のまま。
売上が伸びるほど、この差は毎月広がっていきます。

この「売上の増加によって追加で必要になる現金」を増加運転資金といいます。
成長企業が資金繰りに困る最大の理由がこれです。
(詳しくは【未公開】運転資金の計算方法で解説します)

逆説:成長を止めると現金は戻ってくる

ここが重要なポイントです。6月に売上を1,000万円まで戻したとしましょう。

  • 6月の入金 = 4月の売上 1,728万円
  • 6月の仕入 = 1,000万円 × 70% = 700万円
  • 販管費 200万円
  • 現金の増減:+828万円

1か月で828万円の現金が戻ります。売上を落としたのに、現金は一気に増える。
過去の高い売上の入金が続く一方で、仕入は減るからです。

ここから2つのことが分かります。ひとつは、資金繰りが苦しいときに無理に受注を増やすと、かえって現金が減るということ。
もうひとつは、資金繰りの問題と、事業の収益性の問題はまったく別だということです。

逆に、毎月赤字なのに現金が減らない会社もあります。売上が縮小していれば、
過去の売掛金の回収が続くあいだは現金が入ってくるためです。
この場合、資金繰りの数字だけ見ていると危険な状態に気づけません。

利益と現金がズレる4つの理由

シミュレーションでは入金サイトだけを扱いましたが、実際にはズレの原因は4つあります。
自社がどれに当てはまるかで、打つ手が変わります。

1. 売掛金(入金までの時間差)

売上を計上しても、入金は1〜2か月後。上のシミュレーションで見たとおり、売上が伸びるほど立替額が増えます
売掛金が増えているのに現金が増えていないなら、これが原因です。

2. 在庫(現金が物に変わっている状態)

仕入れた在庫は、売れるまで費用になりません。会計上は「資産」なので利益は減らない。
しかし現金は仕入れた時点で出ていっています

在庫を増やせば、利益は変わらないまま現金だけ減ります。
「在庫は現金が形を変えたもの」と考えると分かりやすくなります。

3. 借入金の元本返済(費用にならない支出)

ここが見落とされやすい項目です。借入の元本返済は費用になりません。
費用になるのは利息だけです。

つまり月に50万円返済していても、損益計算書に出てくるのは利息の数万円のみ。
残りの元本部分は、利益から税金を引いた後の現金で払っています。
「利益は出ているのに現金が残らない」という会社の多くは、ここが原因です。

4. 減価償却費(現金が出ていかない費用)

これは逆方向のズレです。設備投資の代金は購入時に一括で払っていますが、
費用としては数年に分けて計上されます。減価償却費が計上された年に、現金は出ていきません。

そのため減価償却費の分だけ、実際の現金は利益より多く残ります
簡易的な現金創出力を「利益+減価償却費」で見るのは、この理由からです。

要因 利益への影響 現金への影響 確認する場所
売掛金の増加 なし(売上は計上済み) 減る 貸借対照表の売掛金
在庫の増加 なし(資産) 減る 貸借対照表の棚卸資産
借入元本の返済 なし(費用ではない) 減る 返済予定表
減価償却費 減る(費用) 変わらない 損益計算書

自社の危険度を測る:手元流動性

「うちは大丈夫か」を判断する、最も簡単な指標が手元流動性です。
売上がゼロになっても、いまの現金で何か月耐えられるかを表します。

手元流動性(か月)=(現金・預金 + すぐ換金できる有価証券)÷ 月商

例:現金預金1,500万円 ÷ 月商1,000万円 = 1.5か月分

手元流動性 状態の目安 やること
0.5か月未満 危険 今すぐ資金繰り表を作り、調達手段を検討する
0.5〜1.0か月 注意 3か月先までの資金繰りを可視化する
1.0〜1.5か月 中小企業の平均的な水準 資金繰り表を月次で更新する
1.5か月以上 余裕あり 平時のうちに融資枠を確保しておく

※ 目安は業種や取引条件によって変わります。入金サイトが長い業種ほど、多めの手元流動性が必要です。

数字が小さいこと自体が悪いわけではありません。問題は、把握していないことです。
1.0か月を切っている状態で、それを知らずに受注を増やすと、上のシミュレーションと同じことが起きます。

黒字倒産の兆候チェックリスト

次のうち3つ以上当てはまるなら、資金繰り表を作るのを後回しにしないでください。

  • 利益は出ているのに、口座の残高が毎月減っている
  • 売上が伸びているのに、資金繰りが苦しくなっている
  • 売掛金の残高が、売上の伸び以上に増えている
  • 在庫が増えているが、売れる見込みの説明ができない
  • 借入の元本返済額が、月々の利益を上回っている
  • 支払いのために、別の支払いを翌月に回したことがある
  • 手元流動性が1.0か月を切っている
  • 納税や社会保険料の支払いを遅らせたことがある
  • 3か月先にいくら現金が残っているか、即答できない

最後の項目が最も重要です。3か月先の残高が分からない状態は、それ自体がリスクです。
(【未公開】資金ショートの兆候7つと、気づいたときにやることで詳しく解説します)

気づいたときにやること — 順序が大事です

資金繰りが苦しいと分かったとき、多くの経営者がいきなり資金調達を探し始めます。
これは順序が逆です。いくら必要なのかが分からないまま借りると、足りないか、借りすぎるかのどちらかになります。

ステップ1:資金繰り表を作る(最優先)

最低でも3か月先まで、できれば6か月先までの入金と支払いを書き出します。
ここで初めて「いつ、いくら足りないのか」が数字になります。
(【未公開】資金繰り表の作り方で手順を解説します)

ステップ2:入金を早め、支払いを遅らせる

借りる前にできることがあります。これらは利息がかかりません。

  • 売掛金の回収サイトを短くする交渉
  • 未回収の売掛金の督促
  • 仕入先への支払サイト延長の相談
  • 在庫の圧縮
  • 不要な固定費の見直し

月商1,000万円の会社が入金サイトを1か月縮められれば、およそ1,000万円分の立替が解消されます
これは同額を借りるのと同じ効果があり、しかも返済も利息も不要です。

ステップ3:それでも足りない分を調達する

ここで初めて資金調達を検討します。コストが安い順に、時間の余裕がある順に選んでください。
時間に余裕があれば日本政策金融公庫や信用保証協会付融資が最も安く済みます。
急ぐほど選択肢は限られ、コストは上がります。

すでに銀行に断られている場合は、
銀行に融資を断られたら|理由別の対処法 に、
断られた理由ごとの次の一手をまとめています。

やってはいけないこと

  • 短期間に何社も申し込む — 信用情報に申込履歴が並び、かえって通りにくくなります
  • 「審査なし」「必ず融資」を掲げる業者に連絡する — 正規の貸金業者は必ず審査を行います
  • 納税や社会保険料を止めて他の支払いに回す — 差押えのリスクが生じ、その後の融資も通らなくなります。
    先に税務署へ納税の猶予・換価の猶予を相談してください

よくある質問

資金繰り表は税理士に作ってもらえますか

対応している税理士もいますが、顧問契約の範囲外になることが多くあります。
また資金繰り表は将来の予測なので、受注の見込みや支払いの予定を把握している経営者自身が作るほうが精度が上がります。
形式を整えるところを税理士に相談し、数字は自社で埋めるのが現実的です。

黒字倒産と赤字倒産、どちらが多いのですか

東京商工リサーチの調査では、倒産企業のうち最終期が赤字だった割合は66.2%とされています。
数のうえでは赤字倒産のほうが多いものの、およそ3社に1社は黒字のまま倒産していることになります。
なお集計対象や年次によって数値は変動します。

利益が出ているのに現金が残らないのは、経理の間違いですか

多くの場合、間違いではありません。売掛金の増加・在庫の増加・借入元本の返済という、
利益に現れない現金の流出があるためです。この記事の「利益と現金がズレる4つの理由」で確認してください。
借入の元本返済額が月々の利益を上回っている場合は、構造的に現金が減り続けます。

資金繰りは何か月先まで見ておくべきですか

最低3か月、できれば6か月です。日本政策金融公庫や信用保証協会付融資は実行まで1〜2か月かかるため、
3か月先まで見えていないと、コストの安い調達手段が間に合いません。
先を見る期間の長さが、そのまま選べる手段の幅になります。

まとめ

  • 資金繰りとは現金の出入りを管理すること。利益とはまったく別のもの
  • 会社が倒産するのは赤字だからではなく、支払うべき現金が用意できなかったとき
  • 売上が伸びると仕入の支払いは今月増え、入金が増えるのは2か月後。この差が増加運転資金
  • シミュレーションでは、5か月で1,232万円の黒字を出しながら現金がショートした
  • 利益と現金のズレは売掛金・在庫・借入元本の返済・減価償却の4つで説明できる
  • 手元流動性が1.0か月を切っているなら注意。売上ゼロで何か月耐えられるかの指標
  • 苦しいと気づいたら、借りる前にまず資金繰り表。いくら足りないかが分からなければ調達額も決まらない

次は実際に資金繰り表を作る手順です。
(【未公開】資金繰り表の作り方|Excelで組む手順と最低限の項目

※ 本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、個別の経営判断や資金調達に関する助言ではありません。
※ シミュレーションは仕組みを説明するための仮の数値であり、特定の企業の実績ではありません。
※ 倒産企業の統計は
東京商工リサーチ
の公表資料によります。集計対象・年次により数値は変動します。
※ 手元流動性の目安は業種や取引条件によって適正水準が異なります。


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