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IT・受託開発の資金繰り|検収遅れで増える立替額と、60日ルールが効く取引・効かない取引

最終更新日:

要点まとめ

  • 中小企業庁の統計を集計し直すと、中小の情報サービス業は売掛金が売上の約53日分、買掛金は約22日分。全産業より受け取りは約9日遅く、支払いは約13日早い業種です。売上の56.3%が人件費と外注費なので、入金が1か月遅れるたびにその1か月分を立て替える計算です。
  • 同じ「月末締め翌々月末払い」でも、取適法の対象になる取引なら常駐のコーディング(プログラムの作成)は2か月を超えて問題になりうる一方で運用・保守(情報処理)は要件を満たせば締切後2か月以内に収まります。公正取引委員会の公式Q&Aとテキストを突き合わせるとこの違いが見えてきます。
  • 「60日ルール」は全員に当てはまるわけではありません。発注元の資本金・従業員数、発注元がそのシステムを自社で使うかどうか、相手がフリーランスかどうかで当てはまるルールが変わります。

必要な運転資金を知りたい方は立て替え額の計算、支払条件が法令に合っているか確かめたい方は判定表からどうぞ。

システム開発・Web制作・SESの会社は給与と外注費を毎月払い、代金は納品・検収の後に受け取ります。
公的統計と公正取引委員会の原文だけを材料に、立て替えがいくらになるかと支払いの遅れを法令で押し返せる取引かどうかを判定してみました。

IT受託の資金繰りが苦しくなる構造

中小企業庁の中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)で、法人の「情報サービス業」(33,354社)と全産業の数字を比べました。

項目(中小企業・法人) 情報サービス業 全産業
売掛金(受取手形を含む) 売上の52.9日分 44.3日分
買掛金(支払手形を含む) 売上の21.7日分 34.9日分
人件費+外注費 売上の56.3% 24.9%
現金・預金 月商の3.63か月分 2.66か月分

日数・月数・比率は当サイトで計算(期末残高÷年間売上×365など)。人件費は売上原価の労務費と販管費の人件費の合計。平均値で、中央値ではありません。

売上の半分以上が毎月決まった日に出ていくのに、代金は全産業より約9日遅く入ります。
同業が現預金を月商の3.63か月分と厚めに持っているのは、この構造への備えだと思います。

しかもこの業界は元請・中間下請・最終下請の多重構造です。公正取引委員会のソフトウェア業の実態調査(令和4年6月。資本金3億円以下の法人、回答数4,589)では元請40.4%・中間下請38.2%・最終下請21.3%でした。

受託開発の開発現場のイメージ

入金が1か月遅れると、立て替えはいくら増えるか

案件が途切れず続く会社では、入金が遅れた日数の分だけ毎月の支払いを立て替えることになります。

増える立て替え額 =(月の人件費+月の外注費)× 遅れた日数 ÷ 30

月の人件費+外注費 30日遅れ 60日遅れ 90日遅れ
300万円 300万円 600万円 900万円
510万円(社員5人+外注2人月) 510万円 1,020万円 1,530万円
1,000万円 1,000万円 2,000万円 3,000万円

※ 当サイトの試算。前提:1か月=30日。510万円は社員5人(社会保険料の会社負担込みで1人月70万円と仮定)と外注2人月(1人月80万円と仮定)の合計です。家賃などの固定費は含みません。

自社の数字が分からなければ統計の比率(売上の56.3%)で目安を出せます。月商1,000万円なら、入金が1か月遅れるごとに約563万円です。
運転資金全体の出し方は運転資金の計算方法に書きました。

着手金・中間金を入れると、ピークはどれだけ下がるか

開発3か月・受注額2,000万円(税抜)の1案件で支払条件だけを変えて比べます。支出は毎月25日に510万円、入金は月末とします。

支払条件 入金の時期 立て替えのピーク
一括(3か月目末に納品、4か月目に検収、検収月末締め翌月末払い) 5か月目の末に2,000万円 1,530万円
3分割(着手金30%・中間金30%・残金40%) 契約した月の末に600万円、2か月目の末に600万円、5か月目の末に800万円 420万円

※ 当サイトの仮設例。ピークは現金の出入りを順に足したときの最も深いマイナス。粗利はどちらも470万円。消費税・源泉所得税は考えていません。

分割にすると同じ案件でも立て替えのピークは1,110万円(72.5%)小さくなります。
見積もりの段階から単価と同じ重さで支払条件を交渉する価値があります。交渉の進め方は支払サイトの考え方にまとめました。

60日ルールは自社の取引に当てはまるか:判定表

取適法(中小受託取引適正化法、旧下請法)は受け取った日から60日以内の支払いを求めます。ただし当てはまるかどうかは発注元と自社の規模、取引の中身で決まります。

取引の中身 発注元(委託事業者) 自社(中小受託事業者)
プログラムの作成(コーディングを含む)
情報処理(システムの運用など)
資本金3億円超
資本金1千万円超〜3億円以下
従業員300人超
資本金3億円以下
資本金1千万円以下
従業員300人以下
それ以外の情報成果物・役務(Webデザイン、プログラム以外の制作物など) 資本金5千万円超
資本金1千万円超〜5千万円以下
従業員100人超
資本金5千万円以下
資本金1千万円以下
従業員100人以下

従業員の基準は資本金の基準が当てはまらない場合に使います。「プログラムの作成」か「情報処理」かは、契約の形(請負・準委任など)ではなく取引の内容で判断されます。

表のほかに見落としやすい点は次の3つです。

  • 発注元が、自社で使うシステムを自分では作らずに外注する場合は対象外です。公正取引委員会のQ&A(Q28)は、自社で作成する能力がない部分の外注は情報成果物作成委託に当たらないとしています。一般企業から直接受ける元請の取引はこれに当たりやすくなります。
  • 小さな会社どうしの取引も対象外です。発注元の資本金が1千万円以下で従業員も基準以下なら、自社がどれだけ小さくても当てはまりません。上の調査では元請の55.0%、中間下請の46.1%が資本金1,000万円以下でした(同報告書 本文14〜15ページ)。
  • 自社がフリーランス(従業員のいない個人・一人社長の法人)なら、フリーランス法も使えます。従業員を使用する発注事業者は受領日から60日以内に払う必要があり、資本金の区分はありません。

2027年4月1日からは取適法の対象外の取引にも、独占禁止法の支払告示で60日以内の支払いが求められます。
ただ告示の原文が対象にしているのは取適法の「製造委託等」だけで、取引上の地位が劣っていないと認められる受託事業者と正当な理由がある場合も対象外です。
Q28のような取引は「製造委託等」に当たらないので、告示でも守られないと考えられます。全体像は取適法の解説にまとめました。

検収後払い・月末締めはどこまで許されるか:日付で判定

取適法の対象になる取引なら、支払期日は受け取った日(受領日)を1日目として60日以内です。
公式テキストは「受領後60日以内」を「受領後2か月以内」として運用していて、「月末締め翌月末払い」で6月1日に受け取った分を7月31日(61日目)に払っても問題にしていません。
引っかかるのは検収を待つ仕組みのほうです。

例 日付 判定
① 検収後払い(検収月末締め翌月末払い) 6/1納品、7/15検収、8/31支払(92日目) 違反。検収の有無にかかわらず、受領から2か月以内(7/31まで)に払う必要がある
② 事前の合意あり(納期6/30) 6/10に途中の成果物を提出、6/20に一定の水準を満たすと確認 確認した6/20が受領日。60日目は8/18
③ ②で確認が終わらない 納期6/30に成果物が発注元の手元にある 確認中でも納期6/30が受領日。60日目は8/28

※ 日数は当サイトで計算。

②の扱いは、情報成果物は外から見ただけでは中身を確かめられないために例外的に認められたものです。Q&A(Q88)は「検査終了後に受領することを認める趣旨ではない」(公正取引委員会のQ&Aより)としています。
運用基準の違反事例2-6は納入されたプログラムの検査に3か月かかり、納入から60日を超えて払ったケースです。受領から60日を過ぎた分には、発注元に年14.6%の遅延利息の支払義務があります(300万円で30日なら約3万6,000円)。

SES:常駐のコーディングと運用・保守で、許される支払日が違う

準委任で常駐する契約でもコーディングはプログラムの作成です。
Q&A(Q29)によると、常駐してさまざまな開発作業をする契約も情報成果物作成委託に当たります。作業と同時に発注元のコンピュータに記録された時点で受領したことになるので、1か月締切なら締切後30日以内に支払期日を定めなければなりません。
これに対してシステムの運用など情報処理(役務)は同じ種類の役務が続き、月単位の締切と金額(または単価)を前もって書面などで示していれば締切日から2か月以内の支払いが認められます。

6月分を「月末締め翌々月末(8/31)払い」にした場合 起算日 判定
常駐のコーディング(プログラムの作成) 作業した日(6/1の作業分なら6/1) 8/31は92日目。2か月を超える。翌月末払いまでに収める必要がある
運用・保守(情報処理=役務、上の要件を満たす場合) 締切日の6/30 締切後2か月以内(8/31まで)に収まる

どちらも取適法の対象になる取引(上の判定表に当てはまる場合)の話です。1つの契約に両方の作業が入っているときの扱いは、公正取引委員会の相談窓口に聞くのが確実です。

発注元の指揮命令を受けて働く形なら、準委任ではなく労働者派遣の問題になります。人材派遣業の資金繰りで扱っています。

多重下請で資金が流れるイメージ

多重下請の真ん中の会社が立て替える額

下が中小の会社で、自社との取引が取適法の対象になる場合を考えます。運用基準の違反事例2-8はユーザーからの入金が遅れていることを理由に、定めた支払期日に払わなかったケースを違反としています。
3次請に月300万円を払っている会社なら、元請の入金が30日遅れれば300万円、60日遅れれば600万円を自社で立て替える計算です。

下がフリーランスならフリーランス法の再委託の例外が使えます。
発注時に「再委託である旨」「元委託者の名称」「元委託の支払期日」を示しておけば、支払期日を元委託の支払期日から30日以内にできます。Q&A(Q54)で挙げられている例も、システム開発会社がプログラムの作成をフリーランスのプログラマーに委託するケースです。

フリーランスから6/30に納品。元請から自社への約定の支払日は8/31 フリーランスへの支払期限
通常(受領日から60日以内) 8/28(元請の入金の3日前)
再委託の例外(元委託の支払期日から30日以内) 9/29
例外を使っていて、元請の入金が60日遅れて10/30になった 9/29のまま(31日間の立て替え)

※ 当サイトの試算。30日目は元委託の支払期日を1日目として早い側で数えました。

気をつけたいのは、基準が「約定の」支払期日だという点です。Q&A(Q52)は元委託者から実際に払われた日ではないとしています。
元請からの支払いが分割のときは最後の支払日から30日以内に払う必要があります(Q57)。
例外を使っても元請の遅れは下に回せません。役に立つのは元請との契約の支払日そのものを短くすることです。

支払遅延の実態と、取引先が倒れたときの公的な受け皿

公正取引委員会のソフトウェア業の調査(令和4年、法人、回答数2,637)では支払遅延・不払いで困った経験がある会社は7.4%でした。
内訳(回答数194、複数選択)は次のとおりです。

困った内容 社数 194社に占める割合
ユーザーからの入金が遅れたことを理由に、自社への支払も遅れた 108 55.7%
受領後の検収・テストが長引き、60日以内に払われなかった 53 27.3%
ユーザーの一部キャンセルを理由に払われなかった 38 19.6%
契約上、受領日から60日(2か月)を超えて払う条件だった 38 19.6%
予算の上限に達したという理由で払われなかった 35 18.0%
「最初の1週間は勉強期間」などとして払われなかった 21 10.8%

※ 割合は当サイトで計算。
旧下請法の時代の調査なので、回答した取引が法律の対象かどうかまでは区別されていません。

上位2つは上流の入金遅れと検収の長期化です。督促の手順は売掛金の回収に書いています。

発注元が倒産したときは、日本政策金融公庫(国民生活事業)の取引企業倒産対応資金が使えることがあります。
倒産した企業に50万円以上の売掛金債権などがある、または取引依存度が20%以上などの方が対象です。融資限度額は別枠3,000万円、返済期間は10年以内(うち据置3年以内)です。
倒産に備える共済は経営セーフティ共済で取り上げました。

※ 利用の可否は審査で決まります。

足りないときの調達手段

手段 コストの目安 向いている場面
公庫・保証協会付融資 年2〜5%程度 毎月の立て替えが恒常的に出る、人を増やす前に運転資金を確保したい
ファクタリング(売掛金の売却) 1回ごとの手数料。入金までの日数で年率に直すと高くなりやすい 検収済みの請求書があり、給与日までの数週間だけ足りない

※ コストは一般的な目安で、実際の条件は各機関・各社の審査で決まります。日本政策金融公庫(国民生活事業)の基準利率は、無担保で税務申告を2期終えている場合年3.80〜5.40%(令和8年9月1日現在、特別利率はこれより低い)。
制度の詳細は日本政策金融公庫の融資制度と信用保証協会付融資にまとめています。

ファクタリングの手数料を年率に直すと手数料率×365÷早まる日数です。仮に手数料5%なら、入金が60日早まる場合は年30.4%、90日なら年20.3%に当たります。
1,000万円なら手数料50万円。年3.80〜5.40%で60日借りた利息(約6万2,000〜8万9,000円)の約5.6〜8.0倍です。
使うなら給与日の直前のつなぎに限るのが基本です。仕組みと手数料の見方はファクタリングとはで詳しく書きました。

※ 当サイトの試算。手数料5%は説明のための仮定で、実際の手数料は各社・案件ごとに違います。利息は単利・日割りで計算しました。

銀行に融資を断られたときの立て直し方と、決算書以外で判断される資金調達の手段は
銀行に融資を断られたときにまとめています。

よくある質問

検収が終わるまで支払いを待つと言われました。取適法の違反ですか

取適法の対象になる取引なら違反になりえます。支払期日は検収の有無にかかわらず受領日から60日(2か月)以内です。
例外は事前の合意に基づいて納期前に一定の水準を確認した場合だけです。

SESの「月末締め翌々月末払い」は問題ありませんか

取適法の対象になる取引では作業の中身で変わります。常駐のコーディングはプログラムの作成なので、月締めなら締切後30日以内の支払期日が必要です。翌々月末払いは2か月を超えてしまいます。
運用などの情報処理は要件を満たせば締切日から2か月以内の支払いが認められます。

発注元が小さな会社でも、60日以内に払ってもらえますか

発注元の資本金が1千万円以下で従業員も基準以下なら、取適法は当てはまりません。
自社がフリーランスならフリーランス法で60日以内が求められます。2027年4月1日からの支払告示にも地位が劣っていない受託事業者などの除外があります。

フリーランスへの外注費は、元請から入金されてから払えばよいですか

再委託の例外を使えば、元委託の支払期日から30日以内に払えば足ります。
ただし発注時に再委託である旨などを示す必要があり、基準は約定の支払期日です。元請の入金が遅れてもフリーランスへの期限は延びません。

まとめ

  • 中小の情報サービス業は売掛金が売上の52.9日分、買掛金は21.7日分。人件費+外注費が売上の56.3%で、入金が1か月遅れるごとにその1か月分を立て替える
  • 立て替えの増加は(月の人件費+外注費)×遅れた日数÷30。着手金・中間金を入れれば1案件のピークが1,530万円から420万円に下がる例もある
  • 取適法はプログラムの作成・情報処理が3億円・300人の区分。発注元が自社で使うシステムを外注する取引や、小さな会社どうしの取引は対象外
  • 検収後払いは原則として認められない。SESはコーディングなら締切後30日、運用なら締切後2か月が上限(取適法の対象取引の場合)
  • フリーランスへの再委託は、約定の元委託支払期日から30日以内。元請の遅れは下に回せない

調べ方について

  • 取適法とフリーランス法の区分・支払期日・例外は公正取引委員会の運用基準・Q&A・テキスト(PDF)の原文に当たり、Q&Aの番号や違反事例の番号を本文に書いています。
  • 情報サービス業の財務は中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)のExcelから転記し、日数・月数・比率は当サイトで計算し直しました。支払遅延の内訳は公正取引委員会の報告書から転記しました。
  • 立て替え額・日付の判定・年率換算は当サイトの試算で、前提は表の下に書いています。どこから来たか分からない業界平均の数字は使っていません。

このページについて

本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、個別の資金調達・税務・法律に関する助言ではありません。
個別の取引が取適法・フリーランス法・支払告示の対象になるかは、公正取引委員会の相談窓口や弁護士にご確認ください。制度の内容は変わることがあるので、申込前に各機関の公式情報もあわせてご覧ください。
記載した計算例は説明のための単純化した試算です。

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