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この記事の要点
- 2026年1月1日、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」に変わりました。親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者という呼び方になります。
- 資本金基準に加えて従業員数の基準が新設されました。これまで対象外だった会社が対象になります。資本金が小さくても従業員が多ければ規制される側になります。
- 手形払いが禁止されました。受注する側は現金化が早まって必要な運転資金が減ります。逆に発注する側は支払いが早まるぶん運転資金が増えます。どちら側かで影響が正反対です。
2026年1月1日、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が「中小受託取引適正化法」に改正されました。
略して取適法、または中小受託法と呼ばれます。
名前が変わっただけではありません。規制の対象が広がり、支払い方法のルールが厳しくなりました。
とくに手形払いの禁止は、受注する側と発注する側の両方で資金繰りを動かします。
この記事では、まず自社がどちら側に立つのかを判定できるようにしたうえで、
資金繰りがいくら変わるのかを実際に計算します。
何が変わったのか
改正の柱は5つです。
| 項目 | これまで(下請法) | 2026年1月から(取適法) |
|---|---|---|
| 法律の名前 | 下請代金支払遅延等防止法 | 中小受託取引適正化法 |
| 呼び方 | 親事業者 / 下請事業者 | 委託事業者 / 中小受託事業者 |
| 対象の判定 | 資本金の額だけ | 資本金 または 従業員数 |
| 対象の取引 | 製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託 | 上記に特定運送委託を追加 |
| 支払い方法 | 手形払いは可(サイト60日以内が指導基準) | 手形払いを禁止 |
「下請」という言葉そのものが法律から消えたのは、上下関係を前提とした呼び方を見直すためです。
実務上は呼び名が変わるだけですが、契約書や社内規程の文言は差し替えが必要になります。
自社はどちら側になるか
ここが今回いちばん重要な変更です。これまでは資本金だけで判定していましたが、従業員数の基準が加わりました。
資本金を小さくしたまま人を多く抱えている会社は、今回はじめて規制される側(委託事業者)になる可能性があります。
| 取引の種類 | 委託事業者(発注する側) | 中小受託事業者(受注する側) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託 特定運送委託 |
常時使用する従業員300人超 | 常時使用する従業員300人以下 |
| 情報成果物作成委託 役務提供委託 |
常時使用する従業員100人超 | 常時使用する従業員100人以下 |
従来の資本金基準(製造委託等は3億円・情報成果物作成委託等は5,000万円などの区分)も引き続き使われます。
従業員数基準はそれに加えて判定されるものです。
運送業の方は対象取引の追加に注意
これまで貨物運送の委託は、下請法の対象取引に明示されていませんでした。
今回「特定運送委託」が追加され、運送を委託する取引が正面から対象になります。
多重下請け構造と長い支払サイトが常態化してきた業界なので、影響が大きい変更です。
業界特有の資金繰り構造は運送業の資金繰りにまとめています。
新しく禁止されたこと
- 手形による支払い。電子記録債権やファクタリングを使う場合も、支払期日までに代金相当の金銭を得ることが困難なものは認められません
- 協議に応じない一方的な代金の決定。原材料費や労務費が上がっているのに、価格転嫁の協議を求められても応じずに従来どおりの金額で決めることが禁止されます
支払期日そのもののルール(物品等を受け取った日から60日以内のできるかぎり短い期間内)は、
これまでと変わりません。変わったのはその期日に「現金相当」で払わなければならなくなった点です。
出典:公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」/中小企業庁・公正取引委員会「取適法の改正ポイント」(2026年9月6日確認)
資金繰りはいくら変わるのか
ここからが本題です。手形払いの禁止は、受注する側と発注する側で影響が正反対になります。
順に計算します。
受注する側:必要な運転資金が減る
運転資金の計算方法で見たとおり、必要な運転資金は
「現金が戻ってくるまでの日数」×「1日あたりの事業規模」で決まります。
手形が現金払いに変われば、この日数が縮みます。
月商1,000万円の会社が、サイト120日の手形で受け取っていたケースで計算します。
| 条件 | 現金化までの日数 | 必要な運転資金 |
|---|---|---|
| 改正前:サイト120日の手形 | 120日 | 4,000万円 |
| 指導基準どおりのサイト60日 | 60日 | 2,000万円 |
| 改正後:現金払い | 0日 | 0円 |
日商 = 月商1,000万円 ÷ 30日 = 33.3万円。これに日数を掛けています。
検算:1,000万円 × (120日 ÷ 30日)= 1,000万円 × 4か月 = 4,000万円。
※ 実務では受取から手形振出までの期間もあるため、これは手形部分だけを取り出した単純化した計算です。
手形の分だけで4,000万円の立て替えが消えます。
この会社が運転資金として4,000万円を借りていたなら、その借入が不要になるということです。
手形割引をやめられる効果も出る
手形を受け取っていた会社の多くは、期日を待たずに手形割引で現金化しています。割引料がかかります。
年3%でサイト120日の手形1,000万円を割り引くと、割引料は
1,000万円 × 3% × 120日 ÷ 365日 = 約9.9万円。
隔月で年6回割り引けば年間約59万円です。手形が無くなればこのコストも消えます。
発注する側:必要な運転資金が増える
ここを書いている記事はあまり見かけませんが、発注側の負担は確実に増えます。
これまで120日先送りできていた支払いを、60日以内に現金で行うことになるからです。
月1,000万円を外注している会社なら、先送りできていた期間が120日から60日に縮むだけで2,000万円分の現金を前倒しで用意する必要があります。
資金繰り表を作っていない会社は、この変化に気づくのが支払日当日になります。
発注側が今やっておくこと
支払条件を変えると、変更した月だけ支払いが二重に発生します。
従来の手形の期日が到来する月に、新しい現金払いも始まるためです。
この重なりを資金繰り表に入れておかないと、その月に現金が足りなくなります。
移行月の資金手当てを先に確保してください。
いつから適用されるのか
| 時点 | できごと |
|---|---|
| 2024年11月1日 | これ以降に振り出す約束手形で、サイトが60日を超えるものは行政指導の対象に |
| 2025年5月 | 改正法が成立・公布 |
| 2026年1月1日 | 取適法として施行。手形払いの禁止・従業員数基準・特定運送委託が適用開始 |
| 2026年度末(2027年3月末) | 紙の約束手形・小切手の流通を廃止する政府方針の期限 |
つまり手形は「取適法の対象取引では禁止」であり、さらに紙の手形そのものが2027年3月末までに無くなる方向です。
2つの流れが同時に進んでいます。手形が無くなった後に何を使うかは
手形が廃止されたら何が変わる?で解説しています。
よくある質問
資本金が小さければ今回も対象外ですか
いいえ。今回から従業員数の基準が加わりました。
製造委託・修理委託・特定運送委託では常時使用する従業員が300人を超えれば、
情報成果物作成委託・役務提供委託では100人を超えれば、委託事業者として規制される側になります。
資本金を抑えている会社ほど、今回はじめて対象になる可能性があります。
自社の当てはめは顧問弁護士または公正取引委員会の窓口に確認してください。
電子記録債権(でんさい)なら手形の代わりに使えますか
使える場合と使えない場合があります。
取適法では支払期日までに代金相当の金銭を得ることが困難なものは認められないとされています。
でんさいそのものが一律に禁止されるわけではなく、受注者が期日までに現金を確保できるかどうかが判断の軸です。
期日が遠い、割引に高いコストがかかるといった実態があれば問題になり得ます。
これまでどおり60日以内に払えば問題ありませんか
支払期日のルール自体は変わっていません。
変わったのはその期日に何で払うかです。60日以内であっても、手形で払えば取適法の対象取引では認められません。
期日と支払手段は別の論点として整理してください。
運送を委託していますが、これまで下請法の対象ではありませんでした
今回「特定運送委託」が対象取引に追加されました。
これまで対象外だった運送の委託が、正面から規制の対象になります。
発注する側は支払条件と価格協議の記録を、受注する側は書面の交付を受けているかを、それぞれ確認してください。
まとめ
- 2026年1月1日、下請法は取適法(中小受託取引適正化法)になった
- 親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者
- 資本金に加えて従業員数の基準が新設。対象になる会社が広がった
- 特定運送委託が対象取引に追加された
- 手形払いが禁止。支払期日60日以内のルールは従来どおり
- 受注側は必要な運転資金が減り、発注側は増える。移行月は支払いが重なるので要注意
自社の必要な運転資金がいくらなのかを把握していないと、この変化が金額としてどう効くのか判断できません。
計算の手順は運転資金の計算方法にまとめています。
このページについて
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、法令の解釈や個別事案への当てはめについての助言ではありません。
自社の取引が取適法の対象となるかどうかの判断は、顧問弁護士または公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口にご確認ください。
記載した計算例は説明のための仮設例であり、特定の企業の実績ではありません。


