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この記事の要点
- 運転資金の本命の式は「売上債権+棚卸資産−仕入債務」です。月商の何か月分という簡易法は目安にはなりますが、成長しているときは多め、縮小しているときは少なめに出ます。
- 売上が伸びるほど運転資金は増えます。この記事の例では5か月で1,802万円増え、そのうち利益で賄えたのは1,232万円だけ。差額の569万円が現金の減少になりました。
- 経常運転資金は事業を続けるかぎり必要であり続けるお金です。毎月元本を返す証書貸付ではなく、期日一括返済を書き替えていく短期継続融資で調達するのが本来の形です。
計算だけ知りたい方は3つの計算式、いくら借りるかを決めたい方はいくら借りればいいのかからどうぞ。
運転資金とは、売上が現金になるまでのあいだ、会社が立て替えておくお金のことです。
商品を売っても、代金が振り込まれるのは1〜2か月後。ところが仕入代金や給与の支払いは先に来ます。
この「先に払って、後で受け取る」の時間差を埋めるために置いておく現金が運転資金です。
金額を出さないまま「なんとなく足りない」で融資を申し込むと、必要額より少なく借りて数か月後にまた足りなくなることがよくあります。
この記事では計算式を3つ整理したうえで、実際の数字で運転資金を出し、いくら借りればいいのかまで決めます。
計算式は3つある。使い分けを先に決める
「運転資金の計算方法」で検索すると複数の式が出てきて混乱しますが、目的が違うだけです。
次のように使い分けてください。
| 計算式 | 何を出すか | 使う場面 | 精度 |
|---|---|---|---|
| 経常運転資金 売上債権+棚卸資産−仕入債務 |
事業を続けるかぎり常に必要な額 | 融資の申込額を決めるとき | 高い(本命) |
| 月商倍率法 月商 × 1〜2か月分 |
おおよその目安 | 決算書が手元にないとき | 低い(誤差あり) |
| 増加運転資金 今期の経常運転資金−前期 |
成長にともなって追加で必要になる額 | 売上が伸びているとき | 高い |
① 経常運転資金 = 売上債権+棚卸資産−仕入債務
これが本命です。決算書の貸借対照表(B/S)から3つ拾うだけで出ます。
- 売上債権(売掛金・受取手形)= 売ったがまだ回収していないお金
- 棚卸資産(在庫)= 仕入れたがまだ売れていない、現金が物に変わったもの
- 仕入債務(買掛金・支払手形)= 仕入れたがまだ払っていないお金
前の2つは自社が立て替えているもの、最後の1つは取引先に立て替えてもらっているものです。
だから足して、引きます。
② 月商倍率法 = 月商 × 1〜2か月分
決算書が手元にないときの概算です。手軽ですが、後で見るとおり成長局面では多めに、縮小局面では少なめに出ます。
少なめに出るほうが危険です。目安として使い、申込額の根拠にはしないでください。
③ 増加運転資金 = 今期の経常運転資金 − 前期の経常運転資金
売上が伸びているときに追加で必要になる分です。ここが今回のいちばん大事な話なので、実際の数字で見ます。
実際に計算する:売上が伸びているのに現金が減る会社
資金繰りとは?黒字なのに倒産する仕組みを、5か月分の数字で追う
で扱った会社を、そのまま使います。条件はこうでした。
- 1月の売上1,000万円。そこから毎月20%ずつ増加(それ以前は1,000万円で横ばい)
- 原価率70%、販管費は月200万円
- 売上代金の入金は2か月後、仕入代金は当月払い
- 在庫は持たない(仕入れたものはその月に売れる)
- 期首の現金は500万円
まず売掛金の残高を出す
入金が2か月後ということは、月末の時点で未回収なのは「当月分」と「前月分」の2か月分です。
在庫はゼロ、買掛金もゼロなので、この会社の経常運転資金は売掛金の残高そのものになります。
| (単位:万円) | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 当月の売上 | 1,000 | 1,200 | 1,440 | 1,728 | 2,074 |
| 前月の売上 | 1,000 | 1,000 | 1,200 | 1,440 | 1,728 |
| 月末の売掛金=経常運転資金 | 2,000 | 2,200 | 2,640 | 3,168 | 3,802 |
1月末に2,000万円だった運転資金が、5月末には3,802万円になっています。
増加運転資金は 3,802 − 2,000 = 1,802万円です。
利益では足りない。差額が現金の減少になる
同じ5か月で、この会社は累計1,232万円の利益を出しています(1月100+2月160+3月232+4月318+5月422)。
黒字です。それでも現金は減ります。理由は単純で、稼いだ利益より、立て替えの増加額のほうが大きいからです。
検算
累計利益 1,232.5万円 − 増加運転資金 1,801.6万円 = −569.1万円
期首現金 500万円 − 569.1万円 = −69.1万円
A-1で資金繰り表から1か月ずつ積み上げて出した5月末の現金残高は −69万円 でした。一致します。
月ごとの現金の動きを追っても、運転資金の増加から逆算しても、答えは同じところに着きます。
本文中の表は万円未満を四捨五入して表示しているため、表の数字どうしを引き算すると1万円程度ずれることがあります。
つまりこの会社が5か月を乗り切るために必要だったのは、ざっくり600万円ではなく、増加運転資金1,802万円をカバーできる調達でした。
利益が出ているぶんを差し引いても、最低569万円、余裕を見るなら1,000万円規模の枠が要ります。
簡易法だといくらになるか
同じ会社を月商倍率法で計算してみます。5月の月商2,074万円 × 2か月分 = 4,147万円。
精密に計算した3,802万円より345万円(約9%)多い結果です。
理由は、売上が伸びているときは「直近の月商」が「過去2か月の平均」より大きいからです。
多めに出るぶんには安全側なので、成長局面では簡易法でも実害は出にくい。
売上が落ちているときは逆になります
縮小局面では直近の月商が過去より小さいため、月商倍率法は必要額を少なく見積もります。
ところが売掛金の回収はまだ過去の高い売上分が残っているので、実際の立て替えは減っていません。
売上が下がっているときこそ、簡易法ではなく「売上債権+棚卸資産−仕入債務」で出してください。
なぜ売上が伸びるほど足りなくなるのか
運転資金は「現金が出ていってから戻ってくるまでの日数」×「1日あたりの事業規模」で決まります。
日数が同じでも、事業規模が大きくなれば必要額は増えます。売上20%増なら運転資金も約20%増える、という関係です。
この日数を測る指標がCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)です。
| 要素 | 計算 | この会社の場合 |
|---|---|---|
| 売上債権回転期間 | 売上債権 ÷ 日商 | 約60日 |
| + 棚卸資産回転期間 | 棚卸資産 ÷ 日商 | 0日(在庫なし) |
| − 仕入債務回転期間 | 仕入債務 ÷ 日商 | 0日(当月払い) |
| = CCC | — | 約60日 |
CCCが60日ということは、常に60日分の事業活動を自腹で立て替えている状態です。
この日数を縮めれば、売上が同じでも必要な運転資金は減ります。打ち手は3つしかありません。
- 回収を早める(売上債権回転期間を短くする)
- 在庫を減らす(棚卸資産回転期間を短くする)
- 支払いを遅らせる(仕入債務回転期間を長くする)
3つ目は取引先に立て替えを押しつける行為でもあるので、下請代金の支払遅延にあたらない範囲で行う必要があります。
自社が発注側になる場合はとくに注意してください。
いくら借りればいいのか
ここが本題です。経常運転資金は、事業を続けるかぎり必要であり続けます。
売上が同じ水準で推移するかぎり、売掛金の残高もほぼ同じ水準のまま動きません。
「返済して消える性質のお金ではない」ということです。
ところが実務では、この運転資金を5年返済の証書貸付で借りているケースが多くあります。
すると毎月元本を返すことになり、返した分だけ手元の現金が減ります。
事業に必要な立て替えは減っていないのに、です。数年後にまた資金が足りなくなり、また借りる——これを繰り返します。
本来の形は「短期継続融資」
経常運転資金に対応する融資の形は、期日一括返済の短期融資を、期日ごとに書き替えて継続していく方法です。
短期継続融資(実務では「短コロ」とも呼ばれます)といいます。元本返済がないぶん、資金繰りが安定します。
金融庁は2015年1月、金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕に事例20を追加し、
正常運転資金の範囲内で短期継続融資に対応することは何ら問題ないことを明確にしました。
あわせて、正常運転資金は業種や事業によってさまざまであり、
一時点の貸借対照表だけでなく期中の資金需要や事業の状況も考慮すべきだとしています。
なお金融検査マニュアル自体は2019年12月18日に廃止されています。
ただし廃止によってこの考え方が否定されたわけではなく、後継の
「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」でも、
実態に応じた柔軟な融資判断という方向は引き継がれています。
出典:金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕への新たな事例の追加について」(2015年1月20日)/金融庁「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(令和元年12月)(2026年9月6日確認)
申込額の決め方
| 状況 | 申し込む金額の考え方 |
|---|---|
| 売上が横ばい | 経常運転資金の全額。既存の借入で賄えている分を差し引く |
| 売上が伸びている | 経常運転資金 + 今後1年の増加運転資金の見込み |
| 季節変動が大きい | 年間で最も運転資金が膨らむ月を基準にする(平均ではなくピーク) |
| 大口の受注が決まった | その案件の入金までに必要な立替額を個別に上乗せ |
金融機関に説明するときは、この計算過程をそのまま見せてください。
「いくら必要か」ではなく「なぜその額なのか」を、決算書の数字から説明できる会社は多くありません。
根拠のある申込額は、それ自体が審査での評価材料になります。
資金繰り表を添えられればさらに説得力が増します。
業種によって必要額が変わる理由
同じ売上規模でも、必要な運転資金は業種でまったく違います。決めるのはCCCの3要素のどれが重いかです。
| 業種 | 重くなる要素 | 詳しくは |
|---|---|---|
| 運送業 | 燃料費・人件費が先払いで、運賃の入金が後 | 運送業の資金繰り |
| 建設業 | 工期が長く、資材と外注費を完成まで立て替える | 建設業の資金繰り |
| 製造業 | 原材料・仕掛品・製品と、在庫が3段階で滞留する | 製造業の資金繰り |
| 小売・飲食 | 売上が現金なので売上債権は軽い。在庫の管理が主戦場 | — |
自社がどれに近いかを把握すると、削るべき日数がどこにあるかが見えます。
在庫を持たない業種で在庫削減を頑張っても効果はありません。
よくある質問
赤字でも運転資金は借りられますか
経常運転資金の融資は「事業を回すのに必要な立て替え分」に対する融資なので、
赤字であることが直ちに否決の理由になるわけではありません。
ただし赤字が続いていると、運転資金の名目で借りた資金が赤字の穴埋めに消えると判断されやすくなります。
赤字の原因と、それがいつ解消する見込みかを説明できるかが分かれ目です。
断られた場合の選択肢は銀行に融資を断られたらにまとめています。
創業直後で決算書がありません。どう計算しますか
貸借対照表がないので、取引条件から先に組み立てます。
「売上代金の回収は何日後か」「仕入代金の支払いは何日後か」「在庫を何日分持つか」の3つを決めれば、
想定月商からこの記事と同じ方法で計算できます。
実績がないぶん、回収が想定より遅れる前提で多めに見積もるのが安全です。
運転資金と設備資金は分けて借りるべきですか
分けるべきです。性質がまったく違います。
設備資金は投じた設備が生む利益で返していくお金なので、耐用年数に合わせた長期の分割返済が合います。
一方で経常運転資金は事業を続けるかぎり必要であり続けるので、元本返済のない短期継続融資が合います。
混ぜて借りると、設備の返済で運転資金が削られる状態になります。
ファクタリングは運転資金の調達になりますか
売掛金を早く現金化するので、CCCの「売上債権回転期間」を短くする効果があります。
必要な運転資金そのものを減らせる点は融資と違います。
ただし手数料は融資の金利より高くなるのが一般的で、継続して使うとコストが積み上がります。
入金までのつなぎとして単発で使うか、恒常的に使うのかを切り分けて判断してください。
仕組みと手数料の相場はファクタリングとはで解説しています。
まとめ
- 本命の式は経常運転資金=売上債権+棚卸資産−仕入債務。月商倍率法は目安まで
- 月商倍率法は成長局面で多め、縮小局面で少なめに出る。危ないのは後者
- 売上が伸びると運転資金も比例して増える。利益で賄えない分が現金の減少になる
- この記事の例では、5か月で運転資金が1,802万円増え、利益1,232万円では足りず569万円の現金が消えた
- 経常運転資金は返して消える性質のお金ではない。短期継続融資で調達するのが本来の形
- 申込額は計算過程ごと金融機関に示す。根拠のある金額はそれ自体が評価材料になる
次は、この計算に使った数字がどこから来るのかを確認しておくと理解が固まります。
資金繰り表の作り方で、
1か月ずつ現金の動きを積み上げる方法を解説しています。
このページについて
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