最終更新日:
資金繰り表はこれから数か月のあいだに入ってくるお金と出ていくお金を書き出して
月末に現金がいくら残るかを予測する表です。
決算書は「終わったこと」の記録ですが、資金繰り表は「これから起きること」の予測です。
この違いは大きく資金繰り表を作っている会社は資金が足りなくなる数か月前にそれを知ることができます。
早く知ることにははっきりした金銭的な価値があります。以下ではまず実際の数字でそれを示し、
そのあと作り方の手順と入れ忘れると危ない6項目を書いていきます。
資金繰り表を作ると、何が変わるのか
前の記事
資金繰りとは?黒字なのに倒産する仕組みを、5か月分の数字で追う
で扱った会社をそのまま使います。条件はこうでした。
- 1月の売上1,000万円。そこから毎月20%ずつ増加
- 原価率70%、販管費は月200万円
- 売上代金の入金は2か月後、仕入代金は当月払い
- 期首の現金は500万円
この会社は5か月で1,232万円の黒字を出しているのに、5月末には現金が69万円足りなくなります。
1月に資金繰り表を作っていたら何が見えたか
1月の時点で分かっているのは過去2か月の売上(=これから入金される額)と
受注状況から見た今後の売上見込みです。それだけで5か月先まで組めます。
| 1月に作成した資金繰り表 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 前月繰越 | 500 | 600 | 560 | 352 | 142 |
| 売掛金の回収(2か月前の売上) | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,200 | 1,440 |
| 仕入の支払 | △700 | △840 | △1,008 | △1,210 | △1,452 |
| 販管費 | △200 | △200 | △200 | △200 | △200 |
| 経常収支 | +100 | △40 | △208 | △210 | △212 |
| 翌月繰越 | 600 | 560 | 352 | 142 | △69 |
単位:万円/△はマイナス
1月の時点で、5月の資金ショートが見えています。
実際に困るのは5月でも、資金繰り表があれば4か月前に気づける。
この4か月がそのまま選べる調達手段の幅になります。
4か月の余裕にはいくらの価値があるか
必要な資金を500万円として考えます。気づいたタイミングによって調達コストはこれだけ変わります。
| 気づいた時期 | 使える手段 | コスト | 500万円あたりの負担 |
|---|---|---|---|
| 1月(4か月前) | 日本政策金融公庫・信用保証協会付融資 | 年1〜3% | 年10万円程度 |
| 3月(2か月前) | 銀行のプロパー融資 | 年1〜5% | 年15万円程度 |
| 4月(1か月前) | ビジネスローン | 年5〜18% | 年60万円程度 |
| 5月(当月) | ファクタリング(2社間) | 手数料8〜18% | 1回50万円程度 |
※ コストは一般的な目安です。実際の条件は各社の審査により決まります。
同じ500万円を用意するのに、4か月前なら年10万円、直前なら1回50万円。
しかもファクタリングの手数料は借入の金利と違って1か月分の資金化に対して発生する一回きりの料率です。
毎月続けば負担は積み上がります。
資金繰り表を作る価値は、この差額そのものです。
かかる手間は最初に1〜2時間、その後は月に30分程度。それで数十万円のコスト差が生まれます。

資金繰り表の構造
資金繰り表は3つのブロック+繰越でできています。この骨格さえ押さえればあとは行を埋めるだけです。
| ブロック | 何を入れるか | なぜ分けるのか |
|---|---|---|
| ① 経常収支 | 本業の入金と支払い(売掛金回収、仕入、人件費、家賃、税金など) | ここがプラスかどうかが会社の体力。マイナスが続くなら構造の問題 |
| ② 経常外収支 | 設備投資、資産の売却、保険の解約返戻金など | 毎月起きない特殊な動き。混ぜると①の実力が見えなくなる |
| ③ 財務収支 | 借入による入金、借入元本の返済、リース料 | 借入で埋めた分を区別するため。ここを混ぜると危機に気づけない |
| 翌月繰越 | 前月繰越 + ① + ② + ③ | これが翌月の「前月繰越」になり、連鎖していく |
3つに分ける理由が、この表の一番大事なところです。
経常収支がマイナスなのに借入(財務収支)で埋めて全体をプラスに見せていても、合算した数字だけ見ていると気づけません。
経常収支のマイナスが続いているなら、資金調達では解決しません。収支構造そのものの問題です。
最低限入れる行項目
完璧を目指すと手が止まります。最初はこの項目だけで組めば十分です。
数字をどこから持ってくるかも書いておきます。
| ブロック | 行項目 | 数字の出どころ |
|---|---|---|
| ① 収入 | 現金売上 | 日々の売上のうち即入金される分 |
| 売掛金の回収 | 売掛金台帳。取引先ごとの入金サイトで振り分ける | |
| 受取手形の期日入金 | 受取手形記入帳 | |
| その他の収入 | 補助金の入金、雑収入など | |
| ① 支出 | 現金仕入 | 発注予定から |
| 買掛金の支払 | 買掛金台帳。仕入先ごとの支払サイトで振り分ける | |
| 人件費(給与) | 給与台帳。賞与月は必ず別行で | |
| 法定福利費 | 社会保険料の納付額。翌月末納付が一般的 | |
| 家賃・水道光熱費・通信費 | 直近実績 | |
| 外注費 | 発注予定から | |
| 支払利息 | 返済予定表 | |
| 消費税の納付 | 申告・中間納付のスケジュール | |
| 法人税・住民税・事業税 | 申告・中間納付のスケジュール | |
| ② 経常外 | 設備投資 | 投資計画 |
| 資産の売却収入 | 売却予定 | |
| ③ 財務 | 借入金の入金 | 実行予定 |
| 借入元本の返済 | 返済予定表。利息と分けて記入する | |
| リース料 | リース契約 |
減価償却費は入れません。現金が動かないからです。
これが最も多い間違いなので、後の「入れ忘れると危ない6項目」でも触れます。
作る手順
- 期間を決める:まずは6か月。3か月では公的融資が間に合いません
- 期首の現金残高を入れる:通帳と手元現金の合計。ここは実額です
- 確定している入金を入れる:請求済みの売掛金。取引先ごとの入金サイトで該当月に振り分ける
- 確定している支出を入れる:買掛金・給与・家賃・社会保険料・借入返済。ここまでは推測が入りません
- 税金の納付月を入れる:消費税・法人税・住民税。金額が大きく、月がずれると致命的
- 見込みの売上と仕入を入れる:ここだけが予測。受注残と過去実績から
- 繰越を計算してマイナスになる月を探す:見つかったらその2〜3か月前が動き出すべき時期です
手順3〜5まで入れた時点ですでに8割は完成しています。
資金繰り表が難しく感じるのは予測部分のせいです。実際には確定情報のほうがずっと多いんです。
Excelでの組み方
行に項目、列に月を置きます。テンプレートを探すより自分で組んだほうが早いですし
自社の取引に合った形にもなります。
4行 前月繰越 500 =B20 =C20
5行 現金売上
6行 売掛金の回収
7行 その他の収入
8行 収入合計 =SUM(B5:B7)
9行 仕入・買掛金の支払
10行 人件費
11行 経費
12行 税金の納付
13行 支出合計 =SUM(B9:B12)
14行 ① 経常収支 =B8-B13
15行 ② 経常外収支
16行 借入金の入金
17行 借入元本の返済
18行 ③ 財務収支 =B16-B17
20行 翌月繰越 =B4+B14+B15+B18
4行目の「前月繰越」に前の月の20行目を参照させるのが肝心です(C4 = B20)。
これで数字が連鎖して1月の売上見込みを変えると5月の残高まで自動で変わります。
マイナスになるセルは目立たせておくと便利です。
20行目に条件付き書式を設定して、値が0未満なら赤背景にしておきます。
受注見込みをいじりながらどこまで耐えられるかを試せるようになります。
入れ忘れると危ない6項目
実務で穴があくのはたいていこの6つです。
1. 消費税の納付
いちばん入れ忘れが多い項目です。売上と一緒に預かった消費税は日々の入金に混ざって口座に入っています。
そのため使えるお金だと錯覚しやすいのですが、実際は預かっているだけで、後で納付するお金です。
年商が大きいほど納付額も大きく納付月だけ突然数百万円の支出が発生します。
中間納付がある会社はその月の分も入れておきます。
2. 賞与
支給は6月と12月に集中するのがふつうです。人件費を月割りで平準化して入れていると賞与月に足りなくなります。
別の行を作って支給月に実額を入れるのが確実です。社会保険料も同時に増えます。
3. 借入金の元本返済
元本返済は費用になりません。損益計算書に出てくるのは利息だけです。
損益から資金繰りを推測すると元本部分がまるごと抜け落ちます。
返済予定表を見ながら利息と元本を分けて入れてください。
4. 減価償却費を入れてしまう
こちらは逆の間違いです。減価償却費は現金が出ていかないので、資金繰り表には入れません。
損益計算書からそのまま経費を転記するとこの行が紛れ込みます。
入れてしまうと実際より現金が少なく見えます。
5. 社会保険料の納付タイミング
給与から控除した社会保険料は会社負担分と合わせて翌月末に納付するのが一般的です。
給与と同じ月に入れてしまうと1か月ずれます。
6. 入金サイトを取引先ごとに分けていない
「売上の入金は翌月末」と一律にまとめてしまうケースです。
実際には取引先ごとに入金サイトが違い、遅れる先もあります。
せめて大口の取引先だけは個別に管理しておきたいところです。
1社の入金が1か月遅れるだけで資金繰り表の前提は崩れます。

予定と実績の差異を見る
資金繰り表は作って終わりではなく、毎月「予定」と「実績」を並べて差を見ることで精度が上がります。
| 項目 | 予定 | 実績 | 差異 | 読み取れること |
|---|---|---|---|---|
| 売掛金の回収 | 1,000 | 850 | △150 | 入金の遅れ。督促が必要 |
| 仕入の支払 | 700 | 760 | △60 | 想定より仕入が増えている |
| 月末残高 | 600 | 390 | △210 | 翌月以降の予測も下方修正が必要 |
差異が出ること自体は問題ではありません。困るのは差異に気づかず古い予測のまま進むことです。
月初に前月の実績を入れてそこから先を引き直す。この作業は30分程度で終わります。
売掛金回収の差異が2か月続いたら要注意です。
取引先の支払能力が落ちている可能性があります。金額が大きい先ほど早めに状況を確かめたほうがいいです。
何か月先までどのくらいの頻度で
| 状況 | 期間 | 更新頻度 | 粒度 |
|---|---|---|---|
| 平常時 | 6か月 | 月1回 | 月次 |
| 手元流動性が1.0か月を切っている | 3か月 | 週1回 | 日次または週次 |
| 今月の支払いが危ない | 1か月 | 毎日 | 日次 |
| 融資を申し込む前 | 12か月 | 都度 | 月次 |
最後の行には補足がいります。融資を申し込むとき資金繰り表は最も強い資料になります。
「運転資金として500万円」ではなく「5月に69万円不足し、増加運転資金として500万円必要。
回収は7月以降に改善するため、返済原資は確保できる」と数字で説明できるからです。
銀行が知りたいのは何に使うか・何で返すか・なぜ今かの3点です。
この3つに同時に答えられる資料は、資金繰り表のほかにほとんどありません。事業計画書の数字の作り方は融資の事業計画書の書き方で順に説明しています。
よくある質問
会計ソフトの資金繰り表機能では足りませんか
会計ソフトが出力するのは過去の実績であることが多く、将来の予測ではありません。
実績の把握には役立ちますが「3か月後にいくら残るか」を知るには予測表が別に必要です。
ソフトから実績を取って予測はExcelで組む、という併用が現実的です。
税抜と税込のどちらで作りますか
税込で作ります。資金繰り表は実際に動く現金を追う表なので
入金も支払いも消費税を含んだ金額で発生します。預かった消費税は納付月に支出として計上します。
税抜で作ると、この納付分がどこにも現れません。
売上の予測が立てられない業種はどうすればいいですか
予測できない部分はいったんゼロで置きます。
確定している入金だけで組んだ表は「最悪のシナリオ」になります。
それでも耐えられるなら問題なし。耐えられないなら早く動く必要がある。
判断にはそれで十分です。精度の高い予測より確定分だけの保守的な表のほうが役に立つ場面は多いです。
赤字なのに現金が減っていません。表を作る必要はありますか
むしろ必要です。売上が縮小している局面では過去の売掛金の回収が続くので
赤字でも一時的に現金が増えることがあります。ところが回収が一巡すると急激に減り始めます。
その転換点がいつ来るかを前もって見るのに使えるのが資金繰り表です。
まとめ
- 資金繰り表は将来の現金残高を予測する表。決算書は過去、資金繰り表は未来
- 例の会社では1月の時点で5月の資金ショートが見えていた。4か月の余裕が生まれる
- 同じ500万円でも4か月前なら年10万円、直前ならファクタリングで1回50万円。差額が作る価値
- 構造は①経常収支 ②経常外収支 ③財務収支 + 繰越。分けないと危機に気づけない
- 経常収支のマイナスが続くなら、資金調達では解決しない。収支構造の問題
- 入れ忘れやすいのは消費税・賞与・借入元本。逆に減価償却費は入れない
- まずは6か月分、確定情報だけで組む。それで8割完成する
- 毎月予定と実績を並べて差異を見る。30分で精度が上がっていく
資金繰り表でマイナスの月が見つかったら、次はいくら必要かの計算です。
(運転資金の計算方法|必要額を売上から逆算する)
すでに銀行に断られている場合は
銀行に融資を断られたら|理由別の対処法と、次に取るべき5つの選択肢
に、断られた理由ごとの次の一手をまとめています。
※ 本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、個別の経営判断や資金調達に関する助言ではありません。
※ シミュレーションは仕組みを説明するための仮の数値であり、特定の企業の実績ではありません。
※ 調達コストの比較は一般的な目安であり、実際の条件は各社の審査により決まります。
※ 税務の取り扱いは事業形態や課税方式によって異なります。具体的な処理は顧問税理士にご確認ください。










