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この記事の要点
- 資金ショートは突然起きません。最初の兆候は3〜6か月前に出ています。この記事の例では、ショートの3か月前に月次の現金増減がマイナスへ転じていました。
- いちばん早く気づける指標は手元流動性(現金 ÷ 月商)です。例の会社は0.60か月 → 0.47 → 0.24 → 0.08と落ちていきました。1か月分を切ったら黄色信号です。
- 気づくのが遅れるほど選択肢が減り、コストが上がります。早い段階なら銀行融資、遅くなるとノンバンクやファクタリング。順序を間違えると次の手が打てなくなります。
資金ショートとは、支払わなければならないお金に対して、手元の現金が足りなくなる状態です。
赤字であることとは違います。黒字でも起こります。
そしてショートの当日にいきなり始まるものではありません。
数字は数か月前から動いています。この記事では、実際の数字でその過程を追います。
ショートまでの5か月を数字で追う
A-1で使った会社です。
売上は毎月20%伸びていて、5か月とも黒字。それでも5月に資金がショートしました。
| (単位:万円) | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上(月商) | 1,000 | 1,200 | 1,440 | 1,728 | 2,074 |
| 利益 | 100 | 160 | 232 | 318 | 422 |
| 現金の増減 | +100 | −40 | −208 | −210 | −212 |
| 月末の現金 | 600 | 560 | 352 | 142 | −69 |
| 手元流動性(月商倍率) | 0.60 | 0.47 | 0.24 | 0.08 | — |
手元流動性 = 月末の現金 ÷ その月の月商。何か月分の売上に相当する現金を持っているかを表します。
検算:600 ÷ 1,000 = 0.60/560 ÷ 1,200 = 0.47/352 ÷ 1,440 = 0.24/142 ÷ 1,728 = 0.08。
利益はずっと増え続けています。損益計算書だけを見ていたら、この会社は絶好調です。
ところが現金は2月から減り始め、手元流動性は4か月で0.60から0.08へ落ちました。
最初の兆候は「2月」に出ていた
2月の現金増減は −40万円。金額としては小さく、残高もまだ560万円あります。
見過ごしやすい数字です。しかしここが「利益は出ているのに現金が減る」構造に入った瞬間でした。
ショートの3か月前です。この時点で気づいていれば、銀行と話す時間が3か月ありました。
7つの兆候と、その時点でできること
| # | 兆候 | ショートまでの目安 | この時点でできること |
|---|---|---|---|
| 1 | 月次の現金増減がマイナスに転じた | 3〜6か月 | 選択肢が最も多い。銀行に運転資金を相談。条件交渉も間に合う |
| 2 | 手元流動性が1か月分を切った | 2〜4か月 | 銀行融資はまだ可能。資金繰り表を作って申込額の根拠を用意する |
| 3 | 売掛金の回収が遅れ始めた | 1〜3か月 | 督促と回収条件の見直し。相手が危ないなら取引条件そのものを変える |
| 4 | 借入の返済のために借入をした | 1〜3か月 | 危険信号。リスケジュール(条件変更)の相談を検討する段階 |
| 5 | 役員報酬を止めた・未払いにした | 1〜2か月 | 一時しのぎにしかならない。並行して調達か構造改善を進める |
| 6 | 買掛金の支払いを待ってもらった | 数週間〜2か月 | 信用が傷つく。取引停止のリスクがあるので回数を重ねない |
| 7 | 税金・社会保険料の納付を遅らせた | 数週間 | 滞納する前に猶予制度の相談を。滞納は融資審査で最も重く見られる |
下に行くほど、できることが減り、コストが上がります。
1〜2の段階なら銀行の運転資金融資が現実的な選択肢ですが、
6〜7まで進むとノンバンクやファクタリングしか残らず、コストは数倍から十数倍になります。
打ち手には順序がある
気づいたときに慌てて調達に走るのは、実は最善ではありません。順序があります。
ステップ1:あと何か月もつかを数字にする
最初にやるのは資金繰り表を作ることです。
いつ、いくら足りなくなるのかがわからなければ、いくら借りればいいのかも決まりません。
金額の根拠を示せない申込は、それだけで審査で不利になります。
ステップ2:入金を早め、支払いを遅らせる
調達より先に、現金が戻ってくるまでの日数を縮められないかを見ます。
利息がかからないうえ、返す必要もないからです。
- 回収サイトの短縮を交渉する
- 滞留在庫を処分する(在庫と資金繰り)
- 支払サイトの延長を交渉する(ただし取適法の範囲内で)
この余地がどれだけあるかは、運転資金の計算方法で測れます。
ステップ3:足りない分を調達する
ここでようやく調達です。速さとコストは反比例します。
| 手段 | 入金まで | コスト | 使うべき状況 |
|---|---|---|---|
| 日本政策金融公庫・信用保証協会付融資 | 3週間〜2か月 | 年1〜3%程度 | 1〜2か月の余裕がある |
| 銀行のプロパー融資・当座貸越 | 2週間〜1か月 | 年1〜4%程度 | 取引実績がある |
| ビジネスローン(ノンバンク) | 即日〜1週間 | 年5〜18%程度 | 今週必要 |
| ファクタリング | 即日〜数日 | 手数料2〜18%程度 | 売掛金がある/負債を増やしたくない |
コストは一般的な水準の目安です。実際の条件は審査により決まります。
税金・社会保険料を滞納する前に
資金が足りないとき、最後に回されやすいのが税金と社会保険料です。しかしこれは順序として最悪です。
滞納は融資審査で最も重く見られ、滞納があるだけで公的融資も民間融資もほぼ通らなくなります。
延滞税・延滞金も発生します。
納付が難しいとわかった時点で、滞納する前に所轄の税務署または年金事務所へ相談してください。
換価の猶予・納税の猶予といった制度があり、認められれば分割納付が可能になり、延滞税も軽減されます。
「払えないから連絡しない」が最も不利な選択です。
やってはいけないこと
- 資金繰り表を作らずに借りる。必要額より少なく借りて数か月後にまた足りなくなる
- 構造的な赤字を調達で埋め続ける。借りるほど返済が増え、翌月さらに苦しくなる
- 税金・社会保険料を無断で滞納する。その後の調達手段をほぼすべて失う
- 給与ファクタリングなど、貸金業登録のない業者を使う。違法な高金利の可能性がある(見分け方)
よくある質問
手元流動性はどれくらい必要ですか
最低でも1か月分、できれば1.5〜2か月分が一つの目安とされます。
ただし業種によって適正水準は変わります。入金が月1回にまとまる業種や、
季節変動の大きい業種では、より厚く持つ必要があります。
絶対値より「下がり続けていないか」のほうが重要です。
黒字なのに現金が減っていきます。経理の間違いですか
間違いではないことがほとんどです。利益と現金は別の物差しだからです。
売掛金の増加、在庫の増加、借入元本の返済——いずれも利益には現れませんが現金は減ります。
仕組みは資金繰りとはで解説しています。
すでに支払いが今月分しかもちません。何から手をつけますか
まず支払いの優先順位を決めてください。
給与、税金・社会保険料、取引先への支払い、借入返済の順で、止めたときの影響が大きいものから確保します。
そのうえで借入返済については、滞納する前に金融機関へリスケジュールを相談してください。
黙って遅らせるより、事前に相談したほうが選択肢が残ります。
銀行に相談したら、かえって警戒されませんか
早い段階で数字を持って相談する会社は、むしろ評価されます。
警戒されるのは、状況が悪化してから、根拠のない金額を、急いで申し込むケースです。
資金繰り表と
必要額の計算根拠を持って行けば、話は前に進みます。
まとめ
- 資金ショートの兆候は3〜6か月前から出る
- 最初に動く数字は月次の現金増減。マイナスに転じた月が起点
- 手元流動性(現金 ÷ 月商)が1か月分を切ったら黄色信号
- 兆候が下に進むほど選択肢が減り、コストが上がる
- 順序は①資金繰り表 → ②入金を早め支払いを遅らせる → ③調達
- 税金・社会保険料は滞納する前に相談する。猶予制度がある
すでに銀行に断られている場合の選択肢は
銀行に融資を断られたらにまとめています。
このページについて
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、個別の経営判断や資金調達に関する助言ではありません。
猶予制度の要件や手続きは所轄の税務署・年金事務所にご確認ください。
金利・手数料の水準は一般的な目安であり、実際の条件は各社の審査により決まります。
記載した計算例は説明のための仮設例です。


