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この記事の要点
- 売掛金の消滅時効は、2020年4月1日以降に発生したものは「権利を行使できると知った時から5年」または「行使できる時から10年」の早いほうです。
- 内容証明による催告で時効の完成が猶予されるのは6か月間だけ。しかも効果があるのは最初の1回のみで、何度出しても延びません。6か月以内に支払督促か訴訟へ進む必要があります。
- 回収の遅れは、そのまま立て替えの増加です。月商1,000万円の会社で回収が30日遅れれば1,000万円の資金を余計に用意することになります。
売掛金は、回収して初めて売上になります。入金されていない売上は、帳簿の上の数字にすぎません。
それどころか、運転資金の観点では
回収が遅れるほど、会社は立て替えを増やしていることになります。
この記事では、遅れが金額としていくらになるかを確認したうえで、督促の順序を整理します。
遅れは、いくらの負担になるのか
月商1,000万円の会社の日商は33.3万円です(1,000万円 ÷ 30日)。
回収が遅れるということは、この金額が1日ずつ積み上がるということです。
| 遅れ | 追加で必要になる資金 |
|---|---|
| 10日 | 333万円 |
| 30日 | 1,000万円 |
| 60日 | 2,000万円 |
回収不能になった場合の重さ
500万円の売掛金が回収できなくなったとき、失うのは500万円だけではありません。
利益率10%の会社がこの穴を埋めるには、5,000万円の売上が必要です。
(500万円 ÷ 10% = 5,000万円)
回収は、売上を作るより何倍も効率のよい仕事だということです。
まず時効を確認する
督促の前に、その債権がまだ生きているかを確かめてください。
時効が完成していると、相手が「時効です」と主張(援用)した時点で回収できなくなります。
| いつ発生した売掛金か | 消滅時効 |
|---|---|
| 2020年4月1日以降 | 権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早いほう |
| 2020年3月31日以前 | 改正前の規定が適用され、売掛金は原則2年など債権の種類ごとに短い期間が定められていた |
通常の取引では、支払期日が来れば「権利を行使できることを知っている」状態なので、
実務上は支払期日の翌日から5年と考えておけば大きく外れません。
ただし個別の起算点は事案によるため、時効が近い債権は弁護士に確認してください。
督促の4段階
いきなり法的手続きに入るのではなく、段階を踏みます。関係を壊さずに回収できるほうが、双方にとって得だからです。
段階1:電話・メールで事実を確認する
最初は事務的な確認です。相手の経理処理が漏れているだけということが実際によくあります。
請求書が届いていない、担当者が変わった、支払サイトの認識がずれている——このあたりが原因なら、その場で解決します。
この段階で「いつまでに、いくら払うか」を相手に言わせて、記録に残してください。
メールで残すのが最も簡単です。
段階2:書面で督促する
約束した期日にも入らなければ、書面に切り替えます。まずは普通郵便かメールで、支払期日を明示した督促状を送ります。
段階3:内容証明郵便で催告する
ここから法的な意味が出てきます。内容証明郵便は、いつ・どんな内容の文書を送ったかを郵便局が証明する制度です。
配達証明を付けると、相手に届いた日も証明できます。
催告で時効が止まるのは6か月。しかも1回だけ
内容証明による催告には時効の完成を6か月間猶予する効果があります。
ただし、ここが誤解されやすいところです。
完成猶予の効果が認められるのは、最初の1回の催告だけです。
2回目、3回目と内容証明を出しても、猶予期間は延びません。
6か月以内に支払督促の申立てや訴訟の提起へ進まなければ、そこで時効が完成します。
「内容証明を出しておけば大丈夫」ではありません。6か月の期限つきの猶予だと理解してください。
段階4:法的手続きに進む
相手が支払わない、あるいは連絡が取れないなら、裁判所の手続きを使います。
手続きの選び方
| 手続き | 金額 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 支払督促 | 上限なし | 書類審査のみ。裁判所に出向かない。異議が出ると通常訴訟へ移行 | 相手が争ってこないと見込める |
| 少額訴訟 | 60万円以下 | 原則1回の審理で即日判決 | 金額が小さく、早く決着させたい |
| 民事調停 | 上限なし | 話し合いによる解決。合意が前提 | 取引を続けたい/分割で回収したい |
| 通常訴訟 | 上限なし | 時間と費用がかかるが、争いがあっても決着する | 相手が金額や事実を争っている |
支払督促の流れ
支払督促は、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てます。
書類だけで進み、原則として裁判所に出向く必要がありません。
- 申立て → 裁判所が支払督促を相手に送達
- 送達から2週間以内に相手から督促異議がなければ、債権者の申立てにより仮執行宣言が付される
- 仮執行宣言が付けば、強制執行の申立てが可能になる
ただし相手が督促異議を申し立てると、通常訴訟へ移行します。
争ってくることが明らかな相手には、最初から訴訟を選んだほうが結果的に早いことがあります。
出典:裁判所「支払督促」/裁判所「簡易裁判所の民事事件Q&A」(2026年9月6日確認)
判決を取っても、自動では回収できません
勝訴判決や仮執行宣言付支払督促を得ても、お金が自動で振り込まれるわけではありません。
相手が払わなければ、強制執行(差押え)を別途申し立てる必要があります。
そして差し押さえるには、相手の預金口座や売掛先を自分で特定しなければなりません。
資産の見当がつかない相手からは、判決を取っても回収できないことがあります。
手続きに進む前に、費用倒れにならないかを確認してください。
回収不能を繰り返さないために
取引を始める前にできること
- 与信の枠を決める。1社あたりの売掛残高に上限を設け、超えたら出荷を止める
- 登記情報を確認する。本店所在地、代表者、設立年、資本金は法務局で誰でも取れる
- 支払条件を書面にする。取引基本契約書がないと、後で条件そのものが争いになる
取引中に見ておくこと
- 支払いが1回でも遅れたら、記録して条件を見直す。最初の遅延は最も重要な兆候です
- 売掛残高が与信枠に近づいていないか、月次で確認する
- 相手の資金ショートの兆候が出ていないか(支払いの分割依頼、担当者の交代、連絡の遅れ)
回収リスクそのものを移す方法
ファクタリング(3社間)では、売掛債権を売却するため、
原則として売掛先が支払えなくなったリスクを負わなくなります。
手数料はかかりますが、回収不能の穴を埋めるのに必要な売上(先ほどの例で5,000万円)と比べれば、
選択肢として検討する価値があります。
仕組みと手数料の相場、避けるべき業者の見分け方はファクタリングとはにまとめています。
よくある質問
内容証明は自分で出せますか
出せます。郵便局の窓口またはe内容証明(電子内容証明)で送れます。
ただし文面に法的な意味を持たせたい場合(契約解除、遅延損害金の請求など)は、弁護士に依頼したほうが安全です。
差出人が弁護士名になること自体が、相手への圧力にもなります。
相手が「払えない」と言っています。分割に応じるべきですか
応じる場合は、必ず書面にしてください。
分割の合意は「債務の承認」にあたり、時効が更新(リセット)されます。
口約束だと証拠が残らず、後から争いになります。金額・回数・期日・遅れた場合の扱いまで書面に落としてください。
取引を続けながら督促するのは気まずいのですが
支払期日に払わないのは契約違反です。気を使う立場ではありません。
ただし進め方は選べます。まずは事務的な確認から入り、社内のルールとして督促していると伝えれば、
個人的な対立になりにくくなります。与信枠を理由にすれば、断る側も角が立ちません。
売掛金が回収できないと確定したら、経理処理はどうなりますか
貸倒れとして損失に計上できる場合がありますが、税務上の要件があります。
法律上の債権が消滅した場合、回収不能が明らかな場合、一定期間取引が停止している場合など、
区分ごとに要件が定められています。自己判断で処理せず、顧問税理士に確認してください。
まとめ
- 売掛金の消滅時効は、2020年4月1日以降のものは知った時から5年/行使できる時から10年の早いほう
- 内容証明による催告の完成猶予は6か月。しかも効果は最初の1回だけ
- 督促は電話 → 書面 → 内容証明 → 法的手続きの順で進める
- 支払督促は書類のみで進むが、異議が出れば通常訴訟へ。少額訴訟は60万円以下で原則即日判決
- 判決を取っても自動では回収できない。差押えには相手の資産の特定が必要
- 500万円の貸倒れは、利益率10%なら5,000万円の売上に相当する損失
このページについて
本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、法律相談ではありません。
消滅時効の起算点や法的手続きの選択は個別の事情によって異なります。
実際の対応にあたっては弁護士へご相談ください。
貸倒損失の税務上の取り扱いは要件があるため、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
記載した計算例は説明のための仮設例です。


