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損益分岐点の計算方法|固定費と変動費の分け方と、借入返済後の必要売上高

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要点まとめ

  • 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率。限界利益率は「1 − 変動費率」で、売上から変動費を引いた残りが売上の何割かを表します。
  • 借入がある会社はこれだけでは足りません。元金の返済は費用ではないので、税引後利益と減価償却費から返します。仮設例では通常の損益分岐点1億1,000万円に対して返済後は1億3,500万円必要でした。
  • 下げる手は4つ。最も効果が大きいのは固定費の削減です。逆に値引きは危険です。限界利益率40%の商品を5%値引きすると同じ利益を保つのに数量を14.3%増やす必要があります。

式から確かめたい方は計算式、返済まで含めて知りたい方は返済後の損益分岐点からどうぞ。

「いくら売れば赤字にならないのか」を一つの金額で表したものが損益分岐点売上高です。
計算そのものは割り算ひとつで終わります。実務で使えるかどうかは費用を固定費と変動費にどう分けたか次第です。
もうひとつ、借入がある会社では通常の損益分岐点を超えても資金が足りないことがあります。ここではその差まで仮設例の金額で示しました。

損益分岐点売上高の計算式

限界利益から式を導く

J-Net21(中小企業基盤整備機構)は、損益分岐点を「利益がゼロ(売上高=総費用)となる売上規模」と定義しています。
費用を売上規模に応じて金額が増減する変動費と、売上規模に関係なく一定金額が発生する固定費に分けると次のように書けます。

売上高 - 変動費 - 固定費 = 0
→ 限界利益(売上高 - 変動費) = 固定費
→ 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率(= 固定費 ÷ (1 - 変動費率))

限界利益は売上高と変動費の差額で、固定費の回収に貢献する利益です。
限界利益率は売上が1万円増えたときに手元に残る割合、と言い換えてもかまいません。
この率が高いほど固定費の回収に必要な売上は小さくて済みます。

仮設例で計算する

年商1億2,000万円の小売業を想定した架空の会社で計算してみます(単位は万円)。

項目 金額 内訳・計算
売上高 12,000 —
変動費 7,200 仕入高6,900+荷造運賃300
限界利益 4,800 12,000 − 7,200(限界利益率40%、変動費率60%)
固定費 4,400 人件費2,600+地代家賃600+減価償却費300+支払利息100+その他800
経常利益 400 4,800 − 4,400
損益分岐点売上高 11,000 4,400 ÷ 0.4

売上が1億1,000万円まで落ちると利益がゼロになります。現状は1億2,000万円なので1,000万円の余裕がある計算です。
目標利益を上乗せしたいときは分子に足すだけです。経常利益800万円を狙うなら(4,400+800)÷ 0.4 = 1億3,000万円が必要売上高になります。

固定費と変動費を分けるイメージ

固定費と変動費の分け方

判断の基準は「売上がゼロでも発生するか」

分け方の作業を固変分解と呼びます。実務でいちばん使われるのは勘定科目ごとにどちらかへ振り分ける方法です。
迷ったときの基準はひとつ。売上がゼロの月でも発生するなら固定費、売上に連れて増減するなら変動費です。

業種 変動費になりやすい科目 固定費になりやすい科目
小売業・卸売業 商品仕入高、荷造運賃、販売手数料、支払運賃 役員報酬、正社員の給与、法定福利費、地代家賃、リース料、減価償却費、保険料、水道光熱費の基本料金、支払利息
製造業 直接材料費、買入部品費、外注加工費、荷造運賃
建設業 材料費、外注費、現場ごとの労務費
飲食業 食材費、飲料仕入、使い捨て容器などの消耗品
運送業 燃料費、傭車費(協力会社への外注)、有料道路料金

日本政策金融公庫の経営指標調査も建設業では材料費対完成工事高比率と外注費対完成工事高比率を載せています。この二つを売上に連動する費用として扱っているということです。
業種ごとの原価構成は決算書の読み方で科目の並びから確認できます。

決算書から限界利益率を出す手順

試算表や決算書があれば限界利益率は次の3ステップで出せます。年に1回、決算書ができた時点で作り直すのが現実的な運用です。

手順 やること 見る場所
1 変動費に入れる勘定科目を決め、年間の合計額を出す 製造原価報告書・売上原価の明細、販管費の支払運賃・販売手数料
2 変動費率 = 変動費 ÷ 売上高 を計算する 損益計算書の売上高
3 限界利益率 = 1 − 変動費率。残りの費用をすべて固定費として合計する 販管費の合計+営業外費用(支払利息)

注意点は棚卸の増減を無視すると変動費がずれることです。
売上原価は「期首在庫+当期仕入−期末在庫」で計算されます。在庫が大きく動いた期は仕入高そのものより売上原価ベースで見たほうが正確です。
仕入と在庫が資金をどれだけ拘束しているかは運転資金の計算方法で別に整理しています。

公的統計が使っている簡便法

科目ごとに分けるのが面倒なら、売上原価をまるごと変動費とみなす簡便法があります。
日本政策金融公庫は小企業の経営指標調査で損益分岐点を「営業経費と支払利息割引料の合計額を売上高総利益率で除して」算出しています。
売上高総利益率(粗利率)を限界利益率の代わりに使うやり方です。

損益分岐点売上高 ≒ (販売費及び一般管理費 + 支払利息割引料) ÷ 売上高総利益率

決算書から3つの数字を拾うだけで出せるのでまず概算を知りたいときや過去5期分の推移を並べたいときに向いています。
製造原価に含まれる労務費や減価償却費など固定的な費用まで変動費に入ってしまうのは割り切りです。それでも公的な統計が採用している方法なので、比較の物差しとしては十分使えます。

人件費はどちらに入れるか

いちばん迷うのが人件費です。実務では役員報酬と正社員の給与は固定費、売上や稼働に連動する部分は変動費と分けるのが素直です。

  • 固定費に入れるもの:役員報酬、正社員の基本給、法定福利費、退職金の積立
  • 変動費に入れるもの:出来高払いの外注費、売上歩合の販売手数料、繁忙に合わせて増やすアルバイトの人件費

どちらに入れるかで損益分岐点の金額は変わります。正解を当てるより一度決めた分け方を毎期変えないことのほうが大事です。基準がぶれると期ごとの比較ができなくなります。

損益分岐点比率と安全余裕率

金額のままでは規模の違う年度と比べにくいので、売上高に対する割合にします。

損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高 × 100%
安全余裕率 = (売上高 - 損益分岐点売上高) ÷ 売上高 × 100%(= 100% - 損益分岐点比率)

仮設例では損益分岐点比率が11,000 ÷ 12,000 = 91.7%、安全余裕率が8.3%です。
売上が8.3%落ちたら赤字に転落するということです。

日本政策金融公庫の手引きは、この比率の読み方をこう説明しています。損益分岐点比率が90%の企業は売上が10%以上減少すると利益を確保できなくなるのに対し、70%の企業は30%未満の売上減少であれば利益を確保できる。
また100%を超えているときは経常損失が発生しており、(損益分岐点比率 - 100%)相当の売上高の増加がなければ損失は解消されないとされています。

損益分岐点比率 安全余裕率 意味
70% 30% 売上が3割減っても黒字を保てる
80% 20% 売上が2割減るまでは黒字
90% 10% 売上が1割減ると赤字。仮設例の91.7%はこの水準
100% 0% ちょうど損益ゼロ
110% -10% すでに損失。約10%の売上増がないと解消しない

借入返済を含めた「返済後の損益分岐点」

元金の返済は費用ではない

通常の損益分岐点だけでは足りない理由がここにあります。
借入金の元金返済は損益計算書に費用として出てきません。費用になるのは支払利息だけで、元金は貸借対照表の借入金が減るだけです。

元金を返す原資は税引後利益と減価償却費です。減価償却費は費用として利益を減らしますが現金は出ていかないため、その分だけ返済に回せます。

返済原資 = 税引後利益 + 減価償却費

仮設例の会社は経常利益400万円の黒字です。実効税率を仮に30%とすると税引後利益は280万円。減価償却費300万円を足して返済原資は580万円です。
年間の返済元金が1,000万円なら420万円足りません。黒字なのに資金が減っていく状態です。

必要な売上高を式にする

では、いくら売れば返済まで回るのか。逆算してみます。

必要な税引後利益 = 年間返済元金 - 減価償却費
必要な経常利益 = 必要な税引後利益 ÷ (1 - 実効税率)
返済後の損益分岐点売上高 = (固定費 + 必要な経常利益) ÷ 限界利益率

項目 金額(万円) 計算
年間の返済元金 1,000 前提
減価償却費 300 前提(固定費に含まれる)
必要な税引後利益 700 1,000 − 300
必要な経常利益 1,000 700 ÷ (1 − 0.30)
返済後の損益分岐点売上高 13,500 (4,400 + 1,000) ÷ 0.4
通常の損益分岐点売上高 11,000 4,400 ÷ 0.4
現状の売上高との差 1,500 13,500 − 12,000

通常の損益分岐点は1億1,000万円でした。返済まで含めると1億3,500万円必要でした。
現状の売上1億2,000万円は通常の損益分岐点を1,000万円上回っているのに、返済ベースでは1,500万円足りません。
売上高に対する比率でいえば112.5%で、100%を超えています。

検算です。売上1億3,500万円なら限界利益は5,400万円で、固定費4,400万円を引くと経常利益1,000万円。
税引後700万円に減価償却費300万円を足すとちょうど1,000万円で、返済元金と一致します。

実効税率30%は計算のための仮定です。財務省の資料では日本の法人実効税率は29.74%(2018年度〜)、防衛特別法人税(2026年4月施行)の課税対象に該当する場合は30.64%とされています。
ただしこれは標準的な税率での数値です。中小法人は所得の年800万円以下の部分に15%の税率が適用されるため(所得が年10億円超の事業年度は17%)、実際の負担率は会社ごとに異なります。

この差を埋めるには売上を増やすか、返済期間を延ばして年間の元金を減らすかのどちらかです。
月ごとの資金の動きは資金繰り表で、返済原資の考え方はキャッシュフロー計算書の読み方で確認できます。
借入が重くて純資産まで削られているなら債務超過の解消方法も参考になります。

損益分岐点を下げるイメージ

損益分岐点を下げる4つの打ち手

下げる方法は固定費・変動費率・価格・数量の4つしかありません。仮設例でそれぞれを動かしたときの効果を並べました。

打ち手 売上高 損益分岐点 比率 経常利益
(現状) 12,000 11,000 91.7% 400
固定費を10%削る(4,400→3,960) 12,000 9,900 82.5% 840
変動費率を3ポイント下げる(60%→57%) 12,000 10,233 85.3% 760
値上げ3%(数量は変わらない前提) 12,360 10,540 85.3% 760
販売数量を10%増やす 13,200 11,000 83.3% 880

表から分かることは三つです。

  • いちばん効果が大きいのは固定費の削減です。10%削るだけで損益分岐点が1,100万円下がり比率も9.2ポイント改善しました。J-Net21も「固定費の削減は、ほかのケースに比べ、損益分岐点への影響が大きい」と指摘しています
  • 数量を増やしても損益分岐点そのものは動きません(11,000万円のまま)。下がるのは比率だけです。売上を追う施策は固定費が増えないことが前提になります
  • 値上げ3%と変動費率3ポイント改善は、経常利益への効果がほぼ同じです。仕入交渉が難しいなら価格を、価格が動かせないなら仕入を、という順で考えられます

固定費を削るときは削れる順に並べます。効果が大きく実行しやすいのは使っていない拠点・倉庫の解約、稼働していないリース・サブスクの整理、遊休設備の処分です。
人件費は最後に触る項目です。先に人を減らすと売上も一緒に落ちます。

値引き5%・値上げ5%で必要売上はどう変わるか

値引きの怖さは、限界利益率が低いほど増幅されることです。
同じ限界利益額を保つのに必要な倍率は、限界利益率をm・値引き率をdとして次の式で出ます。

必要な販売数量の倍率 = m ÷ (m - d) / 必要な売上高の倍率 = m × (1 - d) ÷ (m - d)
値上げのときは d を引き算から足し算に変えればm ÷ (m + d)で許容できる数量の倍率が出ます。

限界利益率 5%値引き:必要な数量 5%値引き:必要な売上高 5%値上げ:許容できる数量減
20% +33.3% +26.7% -20.0%
30% +20.0% +14.0% -14.3%
40% +14.3% +8.6% -11.1%
50% +11.1% +5.6% -9.1%
60% +9.1% +3.6% -7.7%

限界利益率20%の商品をたった5%値引きしただけで数量を3分の1以上増やさなければ元の利益に戻りません。
逆に5%値上げしたときは、限界利益率40%なら数量が11.1%落ちても利益は変わりません。
「値引きして数を売る」より「値上げして数が少し減る」ほうが、数字のうえでは通りやすい計算になります。

値引きに踏み切る前に確かめたいのはその値引きで本当に数量がその倍率まで伸びるのかです。
伸びる根拠がないなら同じ原資を販促や品揃えに回したほうが安全です。資金繰り全体の組み立ては事業者向けの資金繰りガイドにまとめています。

よくある質問

損益分岐点売上高はどうやって計算しますか

固定費を限界利益率で割ります。限界利益率は「1 − 変動費率」で、売上高から変動費を引いた限界利益が売上高の何割かを表します。
たとえば固定費4,400万円、変動費率60%(限界利益率40%)なら、4,400万円 ÷ 0.4 = 1億1,000万円です。
目標利益を上乗せしたいときは、固定費に目標利益を足してから割ります。

固定費と変動費はどう分ければよいですか

勘定科目ごとに振り分けるのが一般的で、売上がゼロの月でも発生するなら固定費、売上に連れて増減するなら変動費と考えます。
小売業なら商品仕入高や荷造運賃、製造業なら直接材料費や外注加工費、運送業なら燃料費や傭車費が変動費になりやすい科目です。
概算でよければ、売上原価をまるごと変動費とみなし、売上高総利益率を限界利益率の代わりに使う方法もあります。

損益分岐点比率は何%なら安全ですか

一律の合格点はありませんが、日本政策金融公庫の手引きによれば、損益分岐点比率が90%の企業は売上が10%以上減少すると利益を確保できなくなり、70%の企業は30%未満の売上減少であれば利益を確保できるとされています。
100%を超えているときは経常損失が発生しており、(損益分岐点比率 − 100%)相当の売上増がなければ解消しません。自社の過去5期分を並べて、上がっているか下がっているかを見るほうが実用的です。

黒字なのにお金が足りないのはなぜですか

借入金の元金返済が費用ではないためです。損益計算書に出てくるのは支払利息だけで、元金は税引後利益と減価償却費から返します。
仮設例では経常利益400万円でも返済原資は580万円にとどまり、年間返済1,000万円に420万円足りませんでした。
借入がある会社は、通常の損益分岐点に加えて「返済後の損益分岐点」を計算しておくと、必要な売上高の目標がはっきりします。

まとめ

  • 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率。限界利益率は 1 − 変動費率
  • 固変分解は勘定科目法が基本。売上がゼロでも発生するなら固定費。概算なら売上高総利益率を限界利益率の代わりに使える
  • 損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高、安全余裕率はその残り。比率90%なら売上が1割減ると赤字
  • 元金返済は費用ではない。返済原資は税引後利益+減価償却費で、仮設例では経常利益400万円に対し返済原資580万円、年間返済1,000万円に420万円不足した
  • 返済後の損益分岐点は(固定費+必要な経常利益)÷ 限界利益率。仮設例では1億3,500万円で、通常の1億1,000万円より2,500万円高い
  • 下げる手は4つで固定費の削減が最も効果が大きい。数量を増やしても損益分岐点そのものは動かない
  • 限界利益率40%の商品を5%値引きすると数量を14.3%増やす必要がある。5%値上げなら数量が11.1%落ちても利益は変わらない

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固定費と変動費の分け方や税務上の取扱いは個別の状況により異なるため、顧問税理士にご相談ください。
記載した計算例は説明のために作った単純化した仮設例です。

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