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人材派遣業の資金繰り|給与の立て替え額・消費税・許可の資産要件を公的データで計算

最終更新日:

要点まとめ

  • 厚生労働省の令和6年度の平均単価で計算すると、スタッフ10人の派遣会社が立て替える給与は翌月末入金なら約335万円、翌々月末入金なら約669万円。週払いを入れると翌月末入金でも最大で約669万円まで膨らみます。
  • 給与は消費税の不課税取引なので派遣会社は売上のほぼ10/110を納めます。10人規模で年約573万円=賃金の約1.7か月分。同じ額を外注費で払う会社の約2.8倍で、中間申告は年3回です。
  • 許可の要件は「資本金2,000万円」ではなく「基準資産額2,000万円」です。借入で現預金は増えても基準資産額は増えません。ファクタリングは手数料の分だけ基準資産額を減らします。決算日の現預金は、月末の入金が決算日の前か後かで大きく変わります。

必要な運転資金を知りたい方は給与の立て替え額の表へ。許可の更新が気になる方は資産要件の計算からどうぞ。

人材派遣業はスタッフの給与を先に払い、派遣先からの料金を後で受け取る商売です。
売上が伸びるほど立て替えも膨らむので、黒字なのに手元のお金が足りない状態に陥りがちです。

しかも派遣業にはほかの業種にない事情が2つあります。
許可を続けるために、決算書の上で資産の要件を満たし続けなければならないことと、
売上の大半が給与なのに、給与には消費税の控除がないことです。
ここでは公的機関の公表資料と法令の原文だけを使って数字を出しています。

派遣会社の資金繰りが苦しくなる構造

厚生労働省の集計(令和6年度)によると、派遣料金の平均は8時間あたり26,257円(消費税込み)で派遣スタッフの賃金の平均は16,735円でした。
税抜きの料金は23,870円です。賃金は税抜料金の約70.1%で、差額は8時間あたり約7,135円になります。
社会保険料の会社負担・営業や管理の人件費・事務所の費用・利益はすべてこの差額から出します。
業界全体の売上高は9兆9,005億円。それでも実績のあった事業所の43.1%は売上高5,000万円未満で、小さな事業所が多い業界です。

43.1%は1,000万円未満14.1%と1,000万〜5,000万円29.0%の合計(33,207事業所)。集計の単位は事業所です。

売上の7割近くが給与で、その給与は毎月、決まった日に全額払わなければいけません。なのに入金日は派遣先との契約しだいです。

派遣スタッフの給与を立て替えるイメージ

スタッフ1人・10人・30人で、給与の立て替えはいくら要るか

上の平均単価でスタッフ1人が月20日(8時間換算)働くとします。
1人あたりの賃金は月334,700円で、派遣先への請求は月525,140円(税込)です。
月末締めとして給与と入金の日付を3つのパターンで比べました。

支払・入金の条件 1人 10人 30人
A 給与は翌月15日、入金は翌月末 33万円 335万円 1,004万円
B 給与は翌月15日、入金は翌々月末 67万円 669万円 2,008万円
C 給与は週払い、入金は翌月末 60万〜67万円 602万〜669万円 1,807万〜2,008万円

※ 当サイトの試算。前提:単価は上の令和6年度の全国平均・1人月20日稼働・1か月=30日として日ごとに計算し、「払った給与のうち、その月の派遣料金がまだ入っていない額」の最大値を出しています。
週払いは毎週前の週の7日分を払う仮定です。週払いの曜日と月末の位置で幅が出ます。社会保険料の会社負担・交通費は含みません(加入状況や料率で会社ごとに変わるため)。実際はこの分が上乗せになります。

  • スタッフを1人増やすと、立て替えはAで約33万円、Bで約67万円増えます。最初の給与日が来るのは、その人の派遣料金が1円も入っていない時点です。伸びている派遣会社ほど資金が足りなくなるのはこのためです。
  • 入金が1か月遅れると、立て替えは2倍になります。派遣先と契約するときの支払条件は、単価と同じくらい資金繰りを左右します。
  • 週払いを入れると、翌月末入金(A)でも最大で翌々月末入金(B)と同じ水準です。10人で約268万〜335万円の上乗せです。

給与の支払日は動かせない。前払いは会社が選ぶもの

労働基準法24条は、賃金を通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて払うことを定めています。
さらに25条で、スタッフが出産・病気・災害などの非常の場合の費用として請求したときは支払日の前でもすでに働いた分の賃金を払う義務があります。

これに対して週払い・日払い・前払いは法律上の義務ではなく会社が選ぶ制度です。入れる前に表のCのように立て替えが何か月分増えるかを計算しておかないと後で苦しくなります。

運転資金の一般的な計算式は運転資金の計算方法にまとめています。

給与は仕入税額控除の対象外:派遣会社の消費税が重い理由

国税庁は給与・賃金は雇用契約に基づく労働の対価で、事業として行う取引ではないため消費税の不課税取引としています。
派遣会社は派遣料金に含めて受け取った消費税から給与の分を差し引けないということです。
売上の7割近くが控除できない支出なので、納める消費税は売上のほぼ10/110に近づきます。

スタッフ10人・1年間(本則課税) 金額
派遣料金の売上(税込) 63,016,800円
スタッフの賃金 40,164,000円
納める消費税(地方消費税を含む、課税仕入れ0円の場合) 5,728,800円
うち国税分(7.8%分) 4,468,464円
参考:同じ額を外注費(課税仕入れ)で払う会社の納税額 2,077,527円

※ 当サイトの試算。前提:上の表と同じ単価・稼働日数。事務所の家賃などの課税仕入れがあればその分だけ納税額は減ります。簡易課税は考慮していません。

年約573万円は賃金の約1.7か月分です。
同じ売上・同じ支払額でも、支払いが外注費なら納税額は約208万円。派遣会社は約2.8倍を納める計算になります。

中間申告が年3回になるライン

消費税の中間申告の回数は、前の期の確定消費税額(国税分)で決まります。
48万円超〜400万円以下なら年1回、400万円超〜4,800万円以下なら年3回、4,800万円超なら年11回です。
上の例(国税分4,468,464円)は年3回です。前の期と同じ額なら1回あたり約143万円(地方消費税を含む)を3か月ごとに納めます。
課税仕入れが0円なら国税分が400万円を超えるのはスタッフ約9人からです。

1回あたりの額は国税分の3/12に地方消費税(国税の22/78)を加えた当サイトの試算です。
納めきれないときに使える制度は納税の猶予で詳しく書いています。

許可の資産要件を満たすイメージ

許可の資産要件を満たし続けるための計算

労働者派遣事業の許可には財産の要件があり、新規の許可だけでなく、更新のたびに同じ基準で確認されます。
許可の有効期間は新規3年、更新後は5年です。更新の申請は有効期間が満了する日の3か月前までに出さなければいけません。
厚生労働省の業務取扱要領に書かれている要件は次の3つです。

要件 要領の記載 1事業所 2事業所
① 基準資産額 資産(繰延資産・営業権(のれん)を除く)の総額から負債の総額を引いた額が、2,000万円×事業所数以上 2,000万円 4,000万円
② 負債との比率 基準資産額が、負債の総額の7分の1以上 負債は基準資産額の7倍まで
③ 現預金 事業資金として自己名義の現金・預金が、1,500万円×事業所数以上 1,500万円 3,000万円

確認には原則として貸借対照表が使われます。

よく見かける2つの誤解

  • 「資本金2,000万円が必要」ではありません。要件は資本金ではなく基準資産額(資産−負債)です。資本金が多くても赤字で純資産が減れば満たせません。M&Aで取得した会社ののれんは、資産から丸ごと除かれます。
  • 「1事業所・10人以下なら基準資産額1,000万円・現預金800万円でよい」は、新規許可には使えません。要領ではこれは小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置です。平成28年9月30日以降は平成27年9月30日〜平成28年9月29日にこの措置で許可や更新を受けた事業主などからの申請に限るとされています(要領80〜81ページ)。

決算日の数字で要件を満たせず、増資などで数字が増えたことを示したいときは公認会計士または監査法人の監査証明を受けた中間決算・月次決算が必要です。
その場合は基準資産額・負債・現預金の3つとも同じ決算で確認されます(個人事業主は預金残高証明書などでも可)。
純資産の考え方は債務超過とはと自己資本比率で取り上げています。

借入・増資・ファクタリングで3つの要件はどう動くか

1事業所で基準資産額2,300万円・負債1億2,000万円・現預金1,600万円の会社が1,000万円を手当てするケースで比べてみます。
②の要件だけで見ると負債の上限は2,300万円×7=1億6,100万円です。あと4,100万円までは借りられる計算になります。

手当ての方法 ③ 現預金 ① 基準資産額 負債 ② 7分の1
手当て前 1,600万円 2,300万円 1億2,000万円 満たす
借入1,000万円 2,600万円 2,300万円(変わらない) 1億3,000万円 満たす(負債÷7=約1,857万円)
増資1,000万円 2,600万円 3,300万円 1億2,000万円 満たす
売掛金1,000万円をファクタリング(手数料10%と仮定) 2,500万円 2,200万円(100万円減る) 1億2,000万円 満たす

※ 当サイトの仮設例。借入は現預金と負債が同じ額だけ増えるので基準資産額は動きません。ファクタリングは売掛金1,000万円が現預金900万円に変わり、手数料100万円が費用になるとして計算しています。税金の影響は無視しています。

使うべき手段は、どの要件が足りないかしだいです。

  • 現預金(③)だけが足りない会社なら、借入で対応できます。基準資産額は動きませんが負債の上限(基準資産額の7倍)の範囲なら②も満たしたままです。
  • 基準資産額(①)が足りない会社では、借入は役に立ちません。たとえば基準資産額1,900万円の会社はいくら借りても1,900万円のままです。①を増やせるのは増資と利益の積み上げです。ファクタリングは手数料の分だけ基準資産額を下げるので逆効果になります。役員からの借入も負債なので①は増えません。
  • 事業所を1つ増やすと、①は2,000万円、③は1,500万円上がります。支店を出すなら、出した後の決算日で3つとも満たせるかを先に計算しておくべきです。

決算日の現預金は入金日の1日で500万円以上変わる

③の現預金で見られるのは決算日の貸借対照表の数字です。
派遣会社の預金残高は月の中で大きく上下します。Aの条件(翌月15日払い・翌月末入金)なら15日の給与の後から月末の入金の前までが最も少なくなります。
スタッフ10人だと月末に入る派遣料金は約525万円(税込)です。
この入金が決算日の前か後かで、決算日の現預金は約525万円違います。

銀行の休日は銀行法と銀行法施行令で日曜日・土曜日・祝日と、12月31日〜1月3日と決まっています。
月末が休業日だと入金が前営業日になるか翌営業日になるかは契約しだいです。

決算日 2026年 2027年 2028年 2029年 2030年
3月31日 火 水 金 土(休業日) 日(休業日)
9月30日 水 木 土(休業日) 日(休業日) 月
12月31日 毎年、銀行休業日

休日の定めは銀行法15条と銀行法施行令5条にあります。曜日は当サイトで計算。3月31日・9月30日が祝日になることはありません。

12月決算の会社は月末払いの入金が毎年12月31日には入りません。
派遣先との契約が「休日なら翌営業日払い」だと12月分の入金は決算日の後になり、決算日の現預金は低く出ます。
更新を控えた期は次の3点を押さえておきます。

  1. 派遣先ごとの契約書で、支払日が休日のときに前営業日か翌営業日か
  2. 決算日の残高の見込み(資金繰り表で日ごとに)
  3. 足りない見込みなら決算日より前に借入か増資で手当てする(前の章の表)

日ごとの残高の見通しは資金繰り表の作り方の形で作れます。

派遣料金の入金サイトは取適法では守られない

運送業や建設業の外注取引では、取適法(旧下請法)が受け取りから60日以内の支払いを求めています。
ところが公正取引委員会は派遣会社から労働者の派遣を受けることは、通常、取適法の対象にならないとしています。
派遣は派遣先が自社の業務のために受けるもので、派遣された人が働くのは派遣先の指揮命令の下です。だから委託取引には当たらないという理屈です。

2027年(令和9年)4月1日からは取適法の対象外の取引にも独占禁止法の告示(支払告示)で「受領日から60日以内の支払い」が求められるようになります。
とはいえ対象は取適法と同じ「製造委託等」(製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託)の取引です。
派遣を受けることが取適法上この「製造委託等」に当たらない以上、派遣料金の入金サイトをこの告示で守れると考えるのは難しいでしょう。個別の取引が当たるかどうかは公正取引委員会の相談窓口で聞くのが確実です。

この告示は令和8年告示第3号です。
取適法の全体像は取適法の解説をご覧ください。

結局のところ派遣会社の入金サイトは契約で決まります。交渉の材料になるのは「入金が1か月遅れると立て替えがいくら増えるか」の数字です。
支払条件の交渉の進め方は支払サイトの考え方に、入金が遅れたときの対応は売掛金の回収に書いています。

足りないときの調達手段と資産要件への影響

主な調達手段を資産要件への影響とあわせて並べます。

手段 コストの目安 資産要件への影響
公庫・保証協会付融資 年2〜5%程度 ③現預金は増える。①基準資産額は変わらない。負債が増える
増資 利息はない。株主の持分が動く ①も③も増える。①が足りない会社に向く
ファクタリング(売掛金の売却) 1回ごとの手数料。売掛先の信用力や入金日までの日数で決まる ③は増える。①は手数料の分だけ減る

※ コストは一般的な目安で、実際の条件は各機関・各社の審査で決まります。日本政策金融公庫(国民生活事業)の基準利率は、無担保で税務申告を2期終えている場合年3.80〜5.40%(令和8年9月1日現在、特別利率はこれより低い)。
制度の詳細は日本政策金融公庫の融資制度と信用保証協会付融資にまとめています。

ファクタリングは給与日の直前のつなぎに限って使うのが基本です。更新を控えた期は手数料の分だけ基準資産額が減ることも計算に入れておく必要があります。
仕組みと手数料の見方はファクタリングとはで解説しています。

念のため書いておくと、派遣会社が自社の売掛金を売るファクタリングと、「給与ファクタリング」はまったく別のものです。
給与ファクタリングは個人(労働者)が会社に対して持つ給与の債権を買い取る形をとったものです。金融庁は貸金業に該当し、個人に貸付けを行うヤミ金融の手法として利用しないよう注意喚起しています(金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」)。

銀行に融資を断られたときの立て直し方や決算書以外で判断される資金調達の手段は
銀行に融資を断られたときにまとめています。

よくある質問

派遣会社を始めるには、資本金2,000万円が必要ですか

必要なのは資本金ではなく「基準資産額」2,000万円以上(1事業所の場合)です。
基準資産額は資産(繰延資産・のれんを除く)から負債を引いた額です。ほかに基準資産額が負債の7分の1以上・自己名義の現預金1,500万円以上という要件もあります。許可の更新時にも同じ基準で確認されます。

スタッフ10人の派遣会社には、運転資金がいくら必要ですか

支払条件で大きく変わります。厚生労働省の令和6年度の平均単価(賃金16,735円・8時間)で月20日稼働とすると、給与を翌月15日に払い入金が翌月末なら約335万円、翌々月末なら約669万円を立て替えます。
社会保険料の会社負担や交通費はこれに上乗せです。

派遣会社の消費税が高く感じるのはなぜですか

給与が消費税の不課税取引で、仕入税額控除の対象にならないからです。
売上の7割近くを占める給与から消費税を差し引けないので、納税額は売上のほぼ10/110に近づきます。当サイトの試算ではスタッフ10人で年約573万円。賃金の約1.7か月分です。

ファクタリングを使うと、派遣の許可の資産要件に影響しますか

影響します。売掛金が現預金に変わるので現預金の要件には有利です。ただ手数料は費用になるためその分だけ基準資産額が減ります。
基準資産額が要件ぎりぎりの会社は決算日より前に使うかどうか慎重に考えたほうが安全です。

まとめ

  • スタッフ10人の給与の立て替えは翌月末入金で約335万円、翌々月末入金で約669万円。週払いを入れると翌月末入金でも最大で約669万円
  • 給与は消費税の不課税取引。10人規模で消費税は年約573万円=賃金の約1.7か月分で中間申告は年3回
  • 許可の要件は基準資産額2,000万円・負債の7分の1・現預金1,500万円(いずれも事業所ごと)。借入は①を増やさず、ファクタリングは手数料分①を減らす
  • 決算日の現預金は月末の入金が決算日の前か後かで変わる。12月31日は毎年、銀行休業日
  • 派遣を受けることは取適法の対象外。入金サイトは契約で決まるので立て替え額の数字で交渉する

数字の調べ方

  • 許可の資産要件と有効期間は、厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」第3のPDFを原文で読んで確かめました。
  • 派遣料金・賃金・売上高は厚生労働省の令和6年度事業報告の集計結果から転記しました。税抜料金・差額・割合は当サイトで計算し直しています。
  • 給与の立て替え額・消費税・資産要件の仮設例・決算日の曜日は当サイトの試算です。式と前提は表の下に書いています。
  • ネットでよく見かける「資本金2,000万円が必要」「10人以下なら1,000万円・800万円でよい」という説明は、要領の原文と食い違うので使っていません。社会保険料の会社負担は会社ごとに変わるため計算に含めていません。

このページについて

本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、個別の資金調達・税務・労務・許認可に関する助言ではありません。
許可の要件の当てはめは管轄の労働局、税額は税理士・税務署、取引の適法性は公正取引委員会にご確認ください。制度の内容は変わることがあるので、申込前に各機関の公式情報も見ておいてください。
記載した計算例は説明のための単純化した試算です。

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